回顧2017年 上越タウンジャーナル記者トーク(2)

今年1年を振り返る記者トークの前日からの続きです。(記事中で色の変わった文字をクリックすると、その記事が別ウインドウで開きます)

国宝の太刀「山鳥毛」購入騒動

川村 今年の話題といえば何といっても郷土の武将、上杉謙信の愛刀で国宝の「太刀無銘一文字(号 山鳥毛)」だろう。

江口 昨年8月に市長が取得を表明してから、市民から寄付を募るなど官民挙げた運動を展開してきたが、結局は所有者と金額が折り合わず交渉決裂。11月に断念した。まさかの結末だった。

川村 山鳥毛の取得を巡っては、いろいろと論議がされてきたが、私が一番気になるのは、村山市長が、理屈抜きに本当に山鳥毛が欲しかったかどうかだ。
 日本画が好きだった元上越市長の植木公さんは、美術館ではない地方の小さな博物館が会場であるにもかかわらず、横山大観、伊東深水、上村松園、平山郁夫といった大家の特別展を開き、15年以上、毎年1万5000人から3万人の入館者を集めた。市長自ら先頭に立って交渉したから実現できた展覧会で、全国から高い評価が寄せられた。
 山鳥毛は、どうしても市長が手に入れたかったのだろうか。本当に欲しければ、地元の国会議員を動かすなど、いろいろな方法があったのではないか。

江口 植木さんの次に市長を務めた宮越馨さんも、小林古径邸の購入は自ら直談判して決めたと言っていた。村山市長は山鳥毛の話が出たときに市教育委員会からの報告で「山鳥毛」の存在を初めて知ったと言っているので、どうしても欲しいというより、文化や観光など総合的に考えて取得した方がいいと判断したのだろう。

川村 ところで話は本筋からはそれるが、今回の「断念」の一報は、上越タイムスにすっぱ抜かれて、ちょっと悔しい思いをした。うちも新潟日報もあわててすぐに後追いした。上越タイムスのこのスクープ(?)を巡っては、誰がリークしたかなど議会でもいろいろあったようだね。

記者会見して交渉断念に至る経緯を詳細に説明した野澤教育長(11月21日)
山鳥毛会見2

江口 新聞記事について野澤朗教育長が「朝、部長から電話で聞いてびっくりした。何故なら取材を受けていないからです」と議会で答弁したのには思わっず笑ってしまった。スクープだからこそ、最後は当事者に取材しましょうよと。
 また、議会でのやり取りを聞いていると、市教委はある1人の市議がリークしたのではないかと考えているように思えた。野澤教育長は「(新聞記事より)もっと驚いたのは、新聞が届くか届かないうちにブログで公表されているものがあって非常にびっくりした」と本会議で答弁している。この時間に1人の市議がブログで購入断念について詳しく書いており、このことを教育長は指摘している。リークについてもちろん真偽の程は分からないが、この市議は「わたしはリークしていない」と言っている。

川村 上越市は専門家による鑑定額3億2000万円を提示したが、所有者は5億円とか10億円で売りたいということで交渉が決裂したということ。となると問われるのは当然、交渉の内容とその責任だ。

江口 取材していて印象深いのは、市教委の説明が極めて詳細なことだ。配布された年表形式の詳細な時系列の記載の資料はもちろんだが、相手との具体的なやりとり、交わされた言葉やメールの文面についても赤裸々と言っていいくらい微に入り細に入り説明している。一つの事案について、上越市が自らこれほど詳しく説明(情報公開)したのはこれまで見たことがない。名前などの個人情報は当然伏せられているが、具体的なやりとりをこんなに赤裸々に語られたらわたしなら嫌だなと思うくらいだ。
 すごく詳しく説明しているので、普通の人が抱くであろう疑問には野澤教育長が全て答えていると言っていい。興味のある方は議会の記録や記者会見の記録などをインターネットで参照してほしい。

川村 経緯の説明は十分なのかもしれないが、あれだけ騒いで結局買えなかったことについて誰も責任を取らず、なんだかうやむやになった印象を受ける。

江口 結果的に購入できなかったことについて議会で政治責任を問われた際、村山市長は「議会で審議を経た購入予算を元に交渉した結果として不調になったことから、政治的要素が生じる余地は一切ない」と答弁し、自身の政治責任を明確に否定している。しかし、自ら買うと宣言して、税金でポスターを作って市民も巻き込んで募金を集めた結果、結局買えなかった。ポスター製作費は結果的に無駄な支出だし、募金箱に入れられた市民の約50万円は返さない、というか返せない。政治責任は結果責任で、「真摯に誠実に交渉してきて、落ち度はない」という市教委の説明の通りだとしても、結果についての責任は残る。

川村 首長と議会の二元代表制の地方自治体では、購入予算を議決した議会も、市長と同等の結果責任が問われるはずだ。議員たちが自らの結果責任を取るべく自らの減給議案を提案しながら、市長に対して政治責任を追求するくらいことをして、市民が納得のいく決着をつけてほしかった。それくらいできないと議会の存在意義が問われるし、議員にはそれくらいの気概がほしい。

江口 いろいろあったけど、編集部で思わず購入してしまった山鳥毛の模造刀はいい置き場がなく、会議室にあるが、何だか不思議な光景になってしまっている。

川村 いっそ上越市に寄付してしまおうか(笑)。まあ、模造刀なんかいらないか。

上越タウンジャーナル編集部で今年5月に購入した山鳥毛の模造刀
mozoutou

第3回に続く)

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