上越市教育委員会の野澤朗教育長が2017年11月21日、記者会見し、上杉謙信の愛刀で国宝の「太刀無銘一文字(号 山鳥毛)」について、所有者との間で契約金額が折り合わず購入を断念すると発表した。上越市は専門家による評価額3億2000万円を購入費として予算計上していたが、所有者は交渉開始当初は10億円、最終的には5億円での売却を希望していたことなど交渉の経緯を明らかにした。
「縁がなかった」 解釈に食い違い
市教委は太刀取得に向けて、市民説明会開催や約7350万円を集めた募金活動など市民の機運を高めてきた。今月8日に担当者が面会した際、所有者から「縁がなかった。終わりにする」と伝えられ、交渉は決裂した。
市教委が評価額3億2000万円を契約額の上限としていたのに対して、所有者は評価額をベースに上乗せが可能と考えていたとみられ、こうした解釈の食い違いが交渉決裂の原因となったという。野澤教育長は「市民の大きな期待と思いを頂いた中、購入の約束を果たすことができず大変申し訳ない」と述べた。
発端は2015年6月 当初は10億円
太刀は個人所有で岡山県立博物館に寄託されている。事の発端は、2015年6月に新潟県立歴史博物館を通じて寄せられた、所有者が上越市に譲渡する意向があるとの情報。これを受けて同9月に市教委の担当者が所有者と初めて面会。最初に提示された金額は10億円だった。
評価額3億2000万円で同意?
その後、翌2016年6月には所有者から「最低価格3億円以上、市の予算と寄付金でできる限り10億円に近づけたい」とのメールがあり、翌日に市教委は専門家による鑑定額が3億2000万円となったことを伝えた。これを受けて所有者は同月中に予定対価3億2000万円、譲渡先を上越市として文化庁に国宝の売渡申出書を提出した。市教委は翌7月に面会し、予算議決などの購入までの手続きを説明。その際には契約金額については同意を得たと考え進めてきたという。
仮契約は?
仮契約については「行政の契約では予算の裏付けのない契約書は発行できない」(野澤教育長)として行っていないが、市として意思表示するため2016年12月に仮契約書の「草案」という形で送付している。
予算審議中に増額要求
その後、今年3月2日に面会した際には入金先口座や刀剣の輸送方法などを確認している。しかしその直後、市議会での購入の予算案が審議されていたさなかの3月8日、所有者は5億円での買い取りをメールで求めてきたという。「どうしたのだろうと正直驚いたが、もう一度説得すれば大丈夫だと判断した」(野澤教育長)として、増額の要求は議会に伝えず、市議会は3月24日に予算を議決した。その後も所有者は増額を求め続け、最終的に今月8日に市教委の担当者が面会した際に、交渉決裂が確定的となった。
寄付金は返還へ
集まった7350万円の募金のうち、ふるさと納税や一般の寄付金合計約2350人分については、年度末までに返還する予定。このうち募金箱に入れられた匿名の寄付は約53万円あり、返還できないことから市の収入になる。
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