新潟県上越市の通年観光計画策定支援業務の公募型プロポーザルについて市と選定された業者が近密な関係にあった問題で、選定された業者の提出した企画提案書が、落選したほかの2事業者に比べて結果的に有利な条件で審査されていたことが2023年8月24日までにわかった。市は自ら定め事前に公表していた規則に反して、選定された業者に有利な条件を作り出し審査を進めていた。市はこれまで「民間委員が入った選定委員会で客観的、公正に審査・選定したので、選定過程に問題はない」と説明してきたが、今回のケースでは選定委員会が公平・公正な構成だとしても、選定時の競争性が阻害されたことになる。
企画提案書とプレゼン資料のルール
今回のプロポーザルには3業者が応募。3業者は6月14日までに企画提案書を市に提出し、6月21日の選定委員会でプレゼンを行った。市が定めた事前に公表した要領によると、企画提案書は「A4版3ページ以内、文字サイズは11ポイントで記入すること」と決められており、選定委員に事前配布されるとしていた。プレゼン資料は枚数に制限はないが、配布されるのはプレゼンの当日とされていた。
「詳細はプレゼン資料に」
選定前から市の内部の会議に出席するなど極めて近密な関係にあり、委託事業者として選定された株式会社Essaの企画提案書は、3ページというルールは守られている。しかし、「業務実施方針」「現状評価」「検討の方向性」「実施体制」など11項目が記載されている中で、「スケジュール」を除く10項目すべてについて「*詳細はプレゼン資料にて記載」と記載している。企画提案書だけでは具体的な内容が分からない項目も多く、プレゼン資料とともに読むことを前提に書かれている。プレゼン資料は、別の業者の2倍のページ数があり、多様な内容が書き込まれている。
一方、落選した別の業者の企画提案書には、「実施方針」「業務実施概要」「スケジュール」「実行体制」などが具体的に記載され、決められた3ページに収まっており、プレゼン資料に説明を委任する旨の記載はない。
市が選定委開催要領に違背 プレゼン資料事前送付
市が定めた選定委員会開催要領によると、事前に選定委員に送られるのは企画提案書だけだ。しかし、市は3業者分の企画提案書以外に、3業者分のプレゼン資料も選定委員会開催前に選定委員に送付していた。
Essaに有利な審査手続き
選定委開催要領通りに運用されていたとすれば、Essaについて7人の選定委員が事前に目にしたのは、ほとんどの項目をプレゼン資料に委任すると書いた企画提案書だけだったはずだ。しかし、市が選定委開催要領に反し、大ボリュームで詳細が記されたプレゼン資料を事前送付したことで、Essaはプロポーザルの実施要領に定められた企画提案書の分量の制約が事実上ない状態で、審査に臨んだことになる。
他業者には「選定委開催要領を確認せよ」と市回答
一方、今回プロポーザルに参加した別の業者は事前に、選定委員会の仕様やプレゼンの決まりについて書面で市に質問していた。これに対して市は選定委員会開催要領を確認せよという旨の回答していた。
しかし、公表されていた選定委開催要領の通りには運用されなかった。
担当課「分量多かったので事前に送った」
今回、市が選定委員会開催要領に反しプレゼン資料を選定委員に事前に送ったことについて、この事業を担当する市魅力創造課は上越タウンジャーナルの取材に対し「分量も多く内容も複雑だったので、今回は事前に送付した」と話した。
不可解な決裁文書 職員の正しい提案削除
市魅力創造課は、Essaを有利にするという意図については否定しているが、市の決裁文書にはプレゼン資料の事前送付が選定開催要領に反すると市側が認識していたことをうかがわせる記載がある。
選定委員への企画提案書送付の決済を求める市内部の決済文書は、稟議の途中で課内のいずれかの職員により「当日プレゼンテーション用資料は送付しません」と書き加えられている。書き加えた職員は、プレゼン資料の事前送付が選定委開催要領に反すると理解していたとみられるが、課長までの決済の間に削除されている。
「公平性欠く、やり直しなど対応必要」
今回、選定されたEssaは、前年度から市の内部の通年観光プロジェクト打ち合わせ会議などに出席するなど、市と密接な関係にあった。
また、プロポーザル審査の結果、Essaの得点は100点満点中80点を超えていた一方、残りの2社の得点は選定の最低基準にも満たなかった。
自治体などの計画策定の経験のあるコンサルタントは「選ばれなかった2社はこれまでの実績を見ても選定基準を下回る提案をするような業者ではないので不思議に思っていたが、市が自ら定めたルールを破ったことによって結果的に特定の業者に有利になる条件が生じたのなら納得がいく。明らかに公平性を欠いているのだから、選定をやり直すなど何らかの対応が必要ではないか」と話した。