通年観光プロポーザルは出来レース!? 選定前から市と業者が近密な関係 中川上越市長の肝いり公約

新潟県上越市の中川幹太市長が公約として力を入れている「通年観光」の計画策定を支援する業者が2023年6月に決まった。公募型プロポーザル方式で3社が応募し1社が選ばれた。この業者は、選定前から市の内部の通年観光プロジェクト打ち合わせ会議などに出席するなど、市と密接な関係を持っていたことがわかった。関係者からは「出来レースではないか」などの厳しい声も上がっている。

通年観光計画策定を支援する業者公募

季節ごとのイベントに頼らない通年観光は2021年に当選した中川市長の中心的な公約の一つ。本年度中の計画策定を目指しており、本年度当初予算に委託料などとして約800万円を計上した。業者への委託内容は、計画策定の支援業務で、具体的には地域住民との意見交換会への参加や高田、直江津、春日山のエリア計画の作成(拠点施設の整備検討を含む)だ。

NOTEと新潟日報共同出資のまちづくり会社Essa

プロポーザルは5月15日から募集が始まり、3社が応募。外部の有識者らを入れた選定委員会が実現性、将来性などの観点で採点した結果、株式会社Essa(エッサ、本社新潟市、西川裕代表)が1位で選定された。

Essaは、兵庫県丹波篠山市など全国31か所でNIPPONIAというブランドで歴史的建造物を活用した宿泊施設の企画などを行う株式会社NOTE新潟日報社が共同出資で2021年4月に設立したまちづくり会社。佐渡市や新潟市で古民家ホテルやレストランの開業などを目指して事業を展開している。

広島市でのNOTEの取り組みの様子

代表取締役は新潟日報社の西川氏とNOTEの星野新治氏の2人。Essaが市に提出した会社概要や業務実施体制などによると、従業員はおらず、新潟日報社が新聞紙面報道を通じて地域の合意形成や情報発信を担い、NOTEが計画策定を担うとしている。

team.nipponia.or.jp

前年度から市と近密な関係

市は2022、2023年度の2年で通年観光計画を策定しようと取り組んできた。初年度である昨年度からの動きを振り返ると今回選定されたEssaと市の間に極めて近密な関係が見られる。

庁内打ち合わせ会議にEssa代表(2022年10月)

通年観光計画について部局横断的なプロジェクトとして取り組んでいる市は昨年10月13日、庁内の打ち合わせ会議に、Essaの西川代表を招いた。西川代表は「まちづくり会社Essaの取り組み」と題して講義し、関係する14課などの約26人が聞いた。

市によると、打ち合わせ会議の主な目的は、関係課による進捗状況の確認や進め方の検討、情報共有。いわば内部の会議で、昨年度計6回開かれたが、市職員以外で出席したのは西川代表だけだった。

市議会の勉強会にもEssa代表(2023年1月)

その後、今年1月18日には市議会の通年・広域観光推進特別委員会が西川代表を勉強会に招へい。西川代表から「株式会社Essaによるまちづくり事業、新聞社が考える地方創生」をテーマに話を聞いている。

特別委「NOTEの力 大いにお借りしたい」(2023年2月)

さらに翌2月、通年・広域観光推進特別委は、Essaの親会社NOTEがNIPPONIAというブランドで歴史的建造物を活用した宿泊施設を展開している丹波篠山市を視察。視察報告書は上越市の通年観光について述べた上で「株式会社NOTEの力も大いにお借りしたいと考える」と結んでいる。

中川市長答弁「Essaのノウハウ活用を検討」(2023年3月)

そして3月16日、市議会本会議一般質問で議員が、Essaを名指しして歴史的建造物を宿泊施設として活用することを提案。中川市長は「今後同社が持っているノウハウを活用し(中略)活性化につなげていくことなどを検討したい」と答弁した。この市議会3月定例会には、その後結果的にEssaが受注することになる通年観光計画策定支援の予算案が提出されており、3月24日に可決されている。

なぜ1社だけ? その理由は…

市内部の会議への出席や市議会特別委での講演、視察など、なぜ特定の1社だけがこうして発注側の行政当局と深く近密に関わることができたのか。

中川市長が公務でEssa視察(2022年7月)

中川市長自身が昨年7月20日、Essaの佐渡市相川地区での地域振興の取り組みを公務として視察している。先月の記者会見で「私自身が視察し、現場の方々ともお話ししてきた」と説明し、今回委託先がEssaに決定したことについて期待を述べた一方、「私が視察したことと今回(Essaが)選定されたことは別の話だ」と説明した。

中川市長と新潟日報社長の面会(2022年9月)

Essa代表が昨年10月の市内部の打ち合わせ会議に出席したいきさつについて、通年観光計画策定を担当している市魅力創造課は、新潟日報社の佐藤明社長と中川市長の面会がきっかけだったと説明する。昨年9月、佐藤社長があいさつのため市役所に中川市長を訪問。面会の席上Essaの取り組みが話題となり、その結果10月13日の打ち合わせ会議にEssaの西川代表が招へいされたという。新潟日報社の佐藤社長はEssaの取締役でもある。

市議会へは市観光部局が関与

市議会特別委によると、Essa代表の勉強会出席より先に、2月に丹波篠山市を通年観光の成功事例として視察することを決めていたという。特別委の委員長は「(視察予定について)市の観光部局から聞いたのではないかと思うが、西川代表から視察するなら事前に説明したいという話があり、勉強会を開催することになった」と説明する。また委員長はEssa代表について「これも市の観光部局の方からだったと思うが、面白い人がいると紹介され、以前から面識があった」と話している。

いずれについても、市が強く関与している。

コンサル「出来レース」「信頼できない」

国や地方自治体などの計画策定に関わったあるコンサルタントは「出来レースとしか言いようがない。競争性があると信じて参加した事業者に対し、上越市は何と説明するのだろうか。今後、上越市のプロポーザルでは仕様書などを素直に信用できなくなりそうだ」と厳しく批判している。

中川市長「私が選べと言ったわけではない」

Essaとのこれまでの関係について市魅力創造課は「通年観光についての検討の過程に過ぎない」としており、業者選定についても「選定委員会で客観的、公正に選定した。決してEssaありきではない。実行力、実現性のあるところを選んだ」と説明している。中川市長も「私がEssaを選んでくれと言ったわけではない」としている。

計画策定後の事業実施は?

市ではEssaの支援で今秋ごろまでに計画を策定し、可能な事業については順次実施していくとしている。

今回Essaが受託したのは、あくまで通年観光の「計画策定」支援業務だ。策定した計画に沿って実施されそうな、例えば町家を活用したホテルやレストランなどの実現は別の事業となる。

市魅力創造課によると、今回の委託事業を予算計上する際にEssaを含む複数の業者に見積もりを求めた。その際、Essaからは「ほかの事業者のようにただ計画を作るだけのような仕事はできない」という主旨の話があったという。NOTEやEssaの手掛ける事業は、計画から具体策の実行まで複数年度にわたり一貫して関わる、いわば「伴走型」だということを意味している。

しかし、結果的にEssaが本年度受託したのは、いわば計画づくりの手伝いだけの「計画策定支援業務」だ。

今後、計画実施段階での関与も注目される。

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