独特の力強い造形で異端とも呼ばれた新潟県上越市出身の建築家、渡邊洋治(1923〜1983)が設計した同市春日地区にある「斜めの家」(1976年完成)で、クラウドファンディング(CF)で資金を募った改修工事が完了し、2024年4月から民泊が行われている。当面はクラウドファンディングに協力した人に返礼品として民泊体験をしてもらい、一般客への開放は2025年以降となる予定だ。
斜めの家は60歳で急逝した渡邊の最後の作品で、妹夫婦の自宅として建てられた。木造2階建てだが階段はなく、折り返しのあるスロープで家の中を行き来し、外からは全体が“斜め”に建っているように見える奇抜で重厚な家だ。保存・活用に取り組む「ナナメの会」の代表で同市柿崎区の建築家、中野一敏さん(49)は、渡邊が残した「潜水艦を造るぞ」という言葉から、「雪に埋もれた雁木が春になって浮上するイメージを斜めの家に持たせたのでは」と考察する。
2023年に10年以上空き家になっている家を泊まれる名建築として保存・活用しようと、中野さんら市民有志が改修費用のCFを実施。全国の151人から約237万円が寄せられた。支援金を基に下水設備の接続やトイレの改修、エアコンの更新などの改修工事を行い、今年4月から宿泊体験の客を迎えている。
渡邊は旧直江津市の大工の家に生まれ、高田商工学校(現・県立上越総合技術高校)を卒業後、戦時中は船舶兵を務め、戦後に上京。建築事務所勤務や早稲田大研究室助手などを経て、独立した。代表作は「軍艦ビル」と呼ばれた第3スカイビル(東京都新宿区)や善導寺(糸魚川市)などがある。「航空母艦」と呼ばれた旧新潟労災病院(上越市)も渡邊の設計だった。
2024年6月17日には直江津出身で東京在住の祖父江ひろみさん(74)が、東京在住の友人らと宿泊した。CFで古里にある斜めの家の存在を初めて知ったという。「こんな家があるんだとびっくり、(それまで)知らなかった自分にもびっくり。もうずっと家の中をぐるぐる見物して、おもしろかった。夜は外から眺めると宇宙船のようだった。また誰かを連れてきたい」と話した。
また高田出身の野添晴美さん(65)は「美術館的なものではなく、50年前に住まいとして作った発想がすごい」、新潟市出身の臼井恵子さん(69)は「どうなってるんだと、すぐ2階までスロープを走って行った。テレビもないし、物も置いてない、音がなく、非日常だった」とそれぞれ語った。
中野さんは「周辺に住む人は昔から知っている人も多かったが、泊まっていただけるようになって建物に明かりが戻り、再度注目する人もいるのでは」と話した。2年後には完成から50年を迎えるため、建物のオリジナリティーを残しつつ、一般客が快適に宿泊できるシステムや改修などを検討していくという。
問い合わせはナナメの会(naname023@gmail.com)まで。
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