気温の上昇とともに、新潟県上越市稲田2の稲田橋近くにある「井上冷菓」には、小銭を握りしめた子供からまとめ買いする大人まで、幅広いファンがやってくる。昔ながらの素朴な味を80年も守り続けてきたが、原料の高騰には勝てず、今年から30数年ぶりにアズキとミルクを1本40円に値上げした。だが、10本買っても400円。何だか申し訳ない気持ちになる。
創業は80年前の1938年
アイスキャンデー店を初代の井上直太郎・仁夫妻が始めたのは戦前の1938年(昭和13年)。冷媒にアンモニアガスを使った小型の冷凍機が普及し、日本中にアイスキャンデー店が誕生した頃である。旗を立てた箱を自転車に載せ、鐘を鳴らす「アイスキャンディー売り」は、かつて全国で見られた夏の風物詩だった。
2代目店主、続さん(83)によると、昭和30〜40年代の最盛期には「アイスキャンデーを作って売っている店が、高田だけで30数軒あった」という。しかし、現在は同店1軒だけ。一般的には「井上のアイスキャンデー」として知られるが、年配者は店を「かぼちゃや」という屋号で呼ぶ人もいる。アイスキャンデーを始める前は、野菜や果物を販売していたためだという。
値上げは30数年ぶり
1984年7月発行の雑誌記事に「アズキとミルクが1本30円、チョコが40円」とある。30年以上も値段据え置きで頑張ってきたが、今年からアズキとミルクを40円に値上げした。原価が高いチョコの値段は40円のまま据え置きだ。
「小銭を握りしめて買いに来る子供には心苦しいが、棒は3倍になったし、砂糖も上がった。原価は2倍以上になったはず」と話す。
製法と味は創業当時のまま
1988年(昭和63年)12月には、冷媒にフロンガスを使った新しい冷凍機を導入したが、製法と味は創業当時と変わっていない。
「ミルク」なら、原料は牛乳、砂糖、水飴、でんぷん、ブドウ糖だけ。でんぷんはアズキなどが沈殿しないように、水飴やブドウ糖は甘味を複雑にするために入れている。合成の着色料、保存料、甘味料は使わず、色も味も素朴で、雑味がない。
暑い日、冷たいキャンデーは喉をスッと通り、食べた後も口の中はさっぱりしてべとつかない。
昔ながらのかまども健在
アイスキャンデーの原料液を煮込むのには、今も昔ながらのかまどを使用している。燃料の薪は知り合いの大工さんが持ってきてくれるという。
また、アイスキャンデーをまとめて買うと、紙袋に入れた後に新聞紙で包んでくれる。新聞紙が断熱材になって、30分程度は溶けない。
燃料や包装紙にお金をかけないのも、長年安い値段でアイスキャンデーを販売できた理由だ。
店主は83歳 後継者なし
商売のピークは20年ほど前。「1日に4回ぐらい製造したこともあった。自販機の普及やコンビニが多くなったこともあり、今は当時の3分の1以下かな」と振り返る。
アイスキャンデーは9月で製造を終わるが、冷凍庫に保存して通年販売している。40年ほど前から冬にはたい焼きを販売し、1年を通じた商売になった。
長年、仕事をともにしてきた妻の洋子さん(81)が一昨年12月に骨折し、店に出られなくなった。土日曜には、次女の橋本佳奈さん(47)と孫の奈々さん(13)も助けてくれるが、後継者はいない。
「3年後に食品営業許可が切れるまでは店は続けたいと思うが、体が持つかどうか」と笑った。
所在地 | 新潟県上越市稲田2-3-1 |
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営業時間 | 9:00〜17:00 |
電話 | 025-523-2510 |
定休日 | 不定休 |