レルヒさんの好物「けんさん焼き」ってなーに?

日本にスキー技術を伝えたレルヒ少佐にちなむ新潟県のゆるキャラ、レルヒさんが2012年6月20日、フジテレビ系列のバラエテイー番組「笑っていいとも!」の新コーナー、ゆるキャラJAPANに出演し、全国デビューを果たした。レルヒさんのキャッチコピーに採用された人が食べられる新潟のご当地グルメとして「けんさん焼き」が紹介されたが、上越人はおそらく初耳の、この郷土料理とはどんなものなのだろうか。

「笑っていいとも!」で紹介された新潟のご当地グルメ「けんさん焼き」(クリックで拡大)
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新潟県観光局観光振興課によると、「けんさん焼きは上杉謙信が出陣の際に兵糧としておにぎりを持ち歩き、食べるときに剣先に刺して焼いて食べたことに由来するらしい」という。「上杉謙さん」や「渡辺謙さん」とは関係ないようだ。

「笑っていいとも!」で全国デビューを果たしたレルヒさん
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番組内では同課の白井健一さんが「焼きおにぎりにショウガみそを塗って、だしをかけて食べる家庭料理」と紹介していた。上越や魚沼、長岡などの料理らしいが、表参道・新潟館ネスパス(渋谷区)内の「静香庵」で提供されているだけで、知名度はほとんどない。番組で紹介することになったのは「レルヒさんの好物」であり、フジテレビからの要望によるものだという。

だしをかけて食べる「けんさん焼き」
TV

県内の食に関する資料を調べたところ、「けんさん焼き」の手がかりが見つかった。

NHK大河ドラマ「天地人」の舞台をPRするため、2009年に新潟県大観光交流年推進協議会が作った22ページのパンフレット「新潟の天地人」によると、けんさん焼きは「魚沼では日常のおやつや、豊作祈願の祝い飯として食べられている」とし、「けんしん焼きが訛り、けんさん焼きになったといわれる」と書いている。

折戸理恵子さん著の「新潟のおいしいご飯」(1988年)によると、県内には割木を刺して焼いた「たんぽ焼き」、細長くガマの穂の形にして焼いた「がまほ焼き」など多くの焼きおにぎりがあり、ショウガみそを塗ったものを「献餐(けんさん)焼き」としている。「そのままいただくか、熱いお茶をかけていただく地方もあります。また、スープ、汁などでもおいしくいただけます」として、具体的な地域を挙げていない。

農文協の「聞き書 新潟の食事」(1985年)でも、魚沼地方の食として「献餐焼き」という漢字を使って紹介している。

◇レルヒさんのプロフィール(新潟スノーファンクラブ)……好きなものの中に「けんさん焼き」がある
http://www.niigata-snow.jp/lerch/


その後の調べで、1988年に発刊された「新潟料理ふるさとの味」(桜井薫著)に、けんさん焼きについてくわしく書かれていることが分かった。著者は30年近くにわたってけんさん焼きを調べたという。

由来については「献山、献上品の残り物」(広辞苑)、「神棚に献えた下り飯を焼いて食べた」(食物辞典)、「献上品の残り、粗品と同様ではないか」(味覚辞典)と諸説を紹介している。県内での呼称として、「剣刺焼き」(巻町)、「謙信焼き」(三島町)、嶮山焼き」(北魚沼)を挙げる。

また、民俗学者の柳田国男氏の説として「『間食』を呉音読みすると『ケンジ』で、沖縄では今でもケンジーといい、山陰、京都などでは三度の食事以外の間食をケンズイといっているという。このケンジーがケンズイ→ケンサイ→ケンサンに転じたと思われる」と紹介している。

糸魚川にある「ケンサイメシ」について、柳田国男が「あるいは剣先飯であろうか」と疑問を投げかけていたことから、巻町にあるケンサン焼きの伝説を紹介している。「上杉、武田の戦闘で傷ついた武士たちが、オニギリを剣の先に刺して、たき火で焼いているのを見た農民が、ショウガ味噌を塗ってやったのが由来だ」というもの。「武士がそんなことをするはずがない。農民が竹串を刀に見立てたのが発祥であろう」としている。