2011年10月2日に開幕した上越市美術展覧会(市展)の写真部門で、被写体の承諾を得ず撮影した写真が入選したとして主催する市は10月3日、この作品を展示会場から撤去した。作品は望遠レンズを使って遠くから撮影されたもので、写っている人は撮影されたことに気付かなかったという。市展の7部門のうち、写真の出品点数が毎年最も多い。市では「(被写体の承諾は)常識の範囲のことで、主催者としてもチェックのしようがない」と頭を痛めている。
紅葉した高田公園を歩く子供2人と大人2人の一団を写したもので、題名は「家族で散歩」。一見何の変哲もない写真だ。
しかし、想像してみてほしい。あなたとあなたの家族が休日の朝、のんびりと公園を散歩しているとき、見ず知らずの人が、望遠レンズを使って気付かれないように撮影する。そして、その写真が知らないうちに多くの人の目に触れる場所に「作品」として展示されることを。しかも作品の主題はほかでもないあなたとあなたの家族なのだ。
初日の10月2日に市展を見に行った知人からこの「作品」が展示されていることを知らされた一家は、主催者である市に対応を求めた。その結果、撤去された。
この一家の1人は「子供を含め、無防備な様子を知らないうちに撮影され、多くの人が見る場所に展示されてとても気分が悪い」と話した。
市展の応募要綱には被写体の承諾についての記載はない。市展の7部門のうち、写真部門の出品点数が最も多く、市では「今後はより幅広い人に応募を呼びかけたいが、また同じようなことが起きないとも限らない。来年から被写体の承諾を得る条項を入れることを検討したい」としている。
同種の写真コンテストでは次のような条項を入れているものも多い。
- 写真ついて、第三者(肖像権・著作権)の承諾等が必要となる場合には、応募者の責任にて承諾等を得た上で(未成年の被写体は親権者の承諾)応募して下さい。
- 第三者との間に紛争等が生じた場合は、応募者ご自身がその責任にて紛争等を解決するものとし、主催者は一切関知いたしません。
しかし、こういった条項を入れると主催者には都合がいいが、すべての場面で被写体に声をかけて承諾を得るというのは現実的に無理でもある。
祭りや各種イベントでのステージ、たとえばマーチングバンドやよさこいソーランなど、多くの人に見せることを前提にしているものは承諾が推定できる状況にあるといえよう。
いずれにしても、撮影するとき被写体に「写真を取らせてください」などと声をかけるなど常識の問題だ。
市展は10月10日まで上越市下門前の市教育プラザ体育館で開かれている。日本画、洋画・版画、書道、彫刻、工芸、写真、平面デザインの7部門の入賞作品や無鑑査作品など461点が展示されている。このうち写真は147点が展示されている。