お盆を中心に上越地方でも帰省ラッシュによる車の渋滞ができた。渋滞で車が少しずつしか進まない状況のことを上越地方の方言で「一寸ずり」というが、不思議なことに、上越から1000kmも離れた九州の大分県でも「一寸ずり」を使うことが分かった。
実は、2010年4月16日放送のクイズ番組『熱血!平成教育学院』で、大分出身のユースケ・サンタマリアが「渋滞のことを大分では一寸ずりと言う」と紹介し、大分の人々の間で「“一寸ずり”が方言だとは知らなかった」などと話題になったという。
驚いたのは上越の人も同様だった。上越でも、「長野に行こうと思ったけも、車が一寸ずりでさ。全然進まないんだわ」などと使う。夏だけではなく、大雪で渋滞するときにも良く使うのだ。
方言辞典を調べてみたが、「一寸ずり」についての記述がない。自動車が普及する前の日本に「渋滞」という概念はないはずで、「一寸ずり」は戦後発生した新しい方言とみられる。
「一寸ずり」は「一寸」+「ずる」の複合語であり、「一寸(約3cm)」はわずかしか動かない状況を示す。「ずる」は「足を引きずる」「ズボンがずり落ちる」と同じ自動詞である。
共通語では「ずらす」「ずれる」はあるが、「ずる」の使い方は限定される。「座席をずって(動いて)」「先生がずった(転任した)」「電車がずった(動いた)」などの使い方は共通語にはない。
大分県の教育委員会に用例を聞いてみると、渋滞を示す「一寸ずり」については上越とまったく同じ使い方だった。「座席をもう少しずって」の言い方も同じである。
だが、「電車がずる」や「先生がずる」の使い方はない。さらには大分では「物事や計画が片付く」場合も「前にずる」などと使うようだ。
なお、「一寸ずり」は長野県や富山県でも使っているという。