記録的な大雨により上越市では2011年7月30日、6110世帯1万8609人に避難勧告が発令された。今回の大雨災害では、住民避難の際に重要な市民への周知が大きく遅れるなど市の情報提供体制は極めてずさんだった。
避難勧告発令が市民に知らされるまで約1時間かかったほか、市ホームページへの掲載と報道機関への情報提供は最初の避難準備情報発令から約4時間かかった。また、登録している市民に災害時の緊急情報などを伝える「安全メール」の運用を忘れ、避難勧告などの情報は全く配信されなかった。市は8月1日、大雨災害警戒対策本部会議を開いたが、これらのことはいずれも議題に上らず、市の今後の危機管理体制が問われそうだ。
この日、市が最初に避難準備情報を出したのが午前9時15分。浦川原、大島、柿崎、吉川の4区が対象で、同時に大雨災害警戒対策本部を設置。その後、大出川が溢水したことから午前11時に柿崎区の上金原と桜町新田の合計27世帯91人に避難勧告を出し、同時に保倉川下流域の直江津地区と頸城区、三和区に避難準備情報を出した。午後2時には、保倉川流域の直江津地区と頸城区の合計6083世帯1万8518人に避難勧告を出した。
午後6時30分に全域で解除された。
■防災ラジオ放送は発令から1時間後■
市によると最初の避難準備情報は防災無線で4区に伝えられた。午前11時の柿崎区への避難勧告は、職員が対象となった2町内の町内会長を訪ねて勧告を伝え、防災無線での放送は行わなかったという。
問題は午前11時に直江津地区などに出された避難準備情報だ。旧市域には防災無線がないため、市が2年前から順次各世帯に配布している防災ラジオで放送することになるが、放送が行われたのは発令から約1時間後の正午前だった。
約1時間遅れとなったことについて防災危機管理課は「放送で読み上げる原稿を作ることなどに時間がかかったため」と説明している。
■安全メールの運用忘れる■
上越市には災害時の避難勧告や不審者情報など防災、防犯、交通安全などに関する情報を携帯電話などに電子メールで配信する「安全メール」というシステムがあり、3225人が登録している。
防災関係では3月に、長野県北部地震や津波注意報、計画停電関係の情報を配信していた。前日の7月29日にクマ出没情報を配信しているが、翌30日には一度も配信されなかった。同課では「安全メールを使うべきだったが、思い至らなかった」としている。
■報道発表とHP掲載は4時間後■
市のホームページに情報が掲載されたのは午後1時過ぎで、最初の避難準備情報発令から約4時間が経過している。報道機関への情報提供もこの時点だった。
報道機関への情報提供がなかったため、NHKテレビのデータ放送は午後6時ごろまで、上越市に関して「避難情報は出ていません」と表示され続けた。市防災危機管理課では「情報提供全般について内部での連携が不十分だった。今後はこのようなことがないようにしたい」としている。
■HP災害モード「知らなかった」■
上越市はホームページを昨年度約1300万円かけて全面的にリニューアルした。その際、災害時にトップページが緊急情報などを強調して伝えるモードに切り替わる機能を導入している。しかし、今回の避難勧告の際、ホームページは通常のままだった。
1万8609人に避難勧告が出されているにも関わらず「大雨に注意してください(広報対話課)」という1行の見出しで掲載するだけだった。担当する広報対話課長は「災害時用の画面に切り替わる機能を承知していなかった。今後、運用を考えたい」としている。
■実際避難したのは1.6%■
合計1万8609人に避難勧告が出されたが、実際に避難所に避難した人は、約1.6%に当たる295人だった。
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*「大雨情報リアルタイム更新ページ」(2011年7月30日の災害時に随時更新したページ)
*「上越市による大雨被害まとめ」(2011年8月1日)