フツーに
若者言葉に「フツー」というのがある。「フツーにうまい」とか「フツーにかわいい」「フツーにすごい」「フツーに楽しい」などである。
年配の人からすると、「普通」は「平均・並」という意味。「フツーにうまい」と言われると、うまいのかまずいのかはっきりしないので困惑するようだ。
2010年4月15日放送のNHK番組「みんなでニホンGO!」で、この「フツー」が取り上げられた。
番組が街頭調査をしたところ、「フツーに」ということばが標準以上を表すようになっていることが、判明したという。
若い人は、「フツーにかわいい」は「超かわいい」と同じくらいで、「超かわいい」の上の人もいた。一方で、中年の人は、「フツーにかわいい」は、「かわいい」のずっと下で、団塊世代では「かわいくない」と同じか下である。
番組では、普通に就職し、普通に結婚し、普通に家を建てるなど、平凡で当たり前の人生が、かなえにくい世の中になってしまったと解説していた。「普通」自体のレベルが上がったのだろうか。
「フツーにおいしい」の場合を考えると、おいしいものがあふれている現代にあっては、「普通」と、それ以上のおいしさの区別がつきにくくなっていのかもしれない。
今はこれでもかと奇をてらった新しいグルメが出てくる。最初はおいしいと思っても、2回目は特に感慨もない。それなら「フツーにおいしい」と言っておいたほうが無難である。そもそも、すでに驚くようなおいしいものは、世の中から発掘し尽くされている。幕末の侍が、アイスクリームを食べて驚愕したような味体験はすでにあり得ないのだ。
だが、「他の人はどうか知らないが、私にとってはおいしい」という感じがする「フツー」の使い方は、なげやりな感じを受ける。
20代の女性に、「すごくかわいいと言われるのと、フツーにかわいいと言われるのでは、どっちがいいか」と聞いたら、意外にも「フツーにかわいい」の方がいいという。
理由を聞くと「フツーにかわいいと言われた方が、重荷にならない」という。
主観をあいまいにし、相手との関係もあいまいにする「フツー」は、便利な言葉なのである。
では、「フツー」よりおいしいときは何というのだろう。「超うまい」だろうか。
バカ
上越(ほぼ県内全般)にはさらに強力な方言がある。「バカ」である。
「バカうまい」「バカしょっぱい」「バカ暑い(ばかあっちゃい)」「バカ早い」など、ほぼ「超」と同じ使い方をする。
「バカ」は、「とても」「すごく」「非常に」の意味の接頭語で、並外れてすごいものを表現する。悪い意味ではない。
標準語にも「バカ騒ぎ」「バカでかい」「バカ売れ」などと言う言い方はあるが、新潟のバカは範囲が広い。
「この子、バカ頭いいね」というと、頭がいいのか、悪いのか、県外の人には理解不能となる。
20代の男女に聞いたところ、「バカうまい」は「超うまい」と同じか、やや上を意味する。
ところが、この「バカ」は新潟県だけではなく、静岡県でも良く使われている。「バカおもしろい」「バカいい」「バカいっぱい」「バカ疲れた」など、使い方は新潟県と一緒。なぜ、日本海側と太平洋側で離れている県が同じ使い方をしているか不思議である。