ようやく長い冬が終わり、春3月。だが、まだ積雪が2m以上ある集落が上越市にある。新潟県板倉区大字久々野の柄山(からやま)集落である。ここには人が暮らす人里としては世界一の8m18cmという、とてつもない積雪の世界記録がある。
積雪世界一の集落
人が住んでいない山岳地帯ではどんなに雪が降っても大雪とか豪雪、ドカ雪とは言わない。
気象台、測候所がある所の記録では、上越市高田で1945年(昭和20年)2月16日に記録した3m77cmが最高。歴史をさかのぼると、1665年(寛文5年)の12月27日には1丈4尺(約4m2cm)の大雪があり、そこに大地震が起き死者千数百人を出した。1681年(天和元年)には、「この下に高田あり」の高札が建てられたほどだ。
鉄道沿線の記録としては、1945年(昭和20年)に長野県の飯山線にある宮野原駅で観測した7m85cmが最高。ほかに富山県大山町真川で1945年(昭和20年)に記録した7m50cm、長野県小谷村中土で1927年(昭和2年)に記録した7m42cmなど、7m台の記録がいくつかある。
久々野(柄山)集落で、1927年(昭和2年)2月13日に記録した27尺(8m18cm)というのは、まさに信じられない積雪記録なのである。
人が暮らしている所で日本ほど雪がたくさん降るところはない。日本一ということは、すなわち世界一となる。
16戸から現在では2戸に減る
柄山は板倉の中心地から南東へ約10km。県境黒倉山の麓、標高450mにある。1971年(昭和46年)までは18戸あったが、その後減少が続き、現在では2戸になってしまった。
今は1927年(昭和2年)の大雪のことを記憶している人はいない。15年前の1995年に取材したとき、当時81歳の笠鳥堅治さん(故人)は「昭和20年も降ったが、間に少しは休みがあった。昭和2年は10日以上、夜も昼もまったく休みなく降り続いて、毎日雪下ろしだった」と話してくれた。
今冬の雪下ろしは4、5回
今冬の状況について、同集落の町内会長、笠鳥良治さん(72)に聞いた。積雪を記録しており、今年1月16日の3m40cmが最高。「平場の3倍は降るわね。一晩に80cmぐらい降った日もあった。雪下ろしは4、5回した」と話す。今は道路除雪があるので孤立することはないが、「大雪になると道が開くのが午後になることもある」という。これでは平場への通勤は不可能である。
家の周りには用水を引いた融雪池があり、屋根雪は融雪池に落として融かす。その水をさらに玄関から道路までの通路へ常に流しており、真冬でも通路を確保できるという。
1937年(昭和12年)生まれなので、昭和20年の記録的な豪雪のときは小学生。「大雪の中を歩き、寺野小学校に着いたのは午後2時ぐらいになったときもある。子供のころは、たいがい4mぐらい降った」と話していた。
積雪世界一の標柱
人が住む集落での積雪世界一の記録を知ってもらうため、集落内にはその高さを示す標柱が立っている(写真)。標柱には「積雪世界一 8.18メートル(柄山)昭和2年2月13日)と書いてある。高さは隣の電柱の高さよりやや低い程度。まさに想像を絶する記録である。
また、1992年(平成4年)にオープンした「地すべり資料館」(猿供養寺)の隣には、この最高積雪と同じ高さから滑り降りる大すべり台がある。
=取材日・2010年3月1日/川村記者=