どっちが正しい? 新潟県無形民俗文化財になる「祇園祭」のギの字

この記事の本文で、「祇園祭」の「祇」の字は、どう表示されているだろうか。新しい端末では「示」偏で表示される場合が多いが、一部の古い端末では「ネ」偏で表示されるかもしれない。

祇園か祇園か

「示」偏の漢字と「ネ」偏の漢字は別の字に見えるが、JIS規格などでのコード番号は同じで……要するにコンピュータにとっては同じ文字である。そのため、文字を表示するときのフォント次第で、「ネ」偏か「示」偏のどちらかで表示されるというわけだ。

ぎ略字正字

県の審議会は「"ネ"偏である」

新潟県文化財保護審議会は2017年2月21日、上越市の直江津、高田祇園祭の御旅所行事と屋台巡行を、県無形民俗文化財に指定するよう答申した。その際、祇園祭の「祇」の字は、「"示"偏ではなく"ネ"偏である」としている。

同審議会事務局の教育庁文化行政課では「八坂神社由緒で『ネ』偏が使われていることや、上越市でもポスターなどで『ネ』偏を使っていることが根拠」と話す。

混乱の原因はJIS規格の改正?

JIS規格(日本工業規格)では、初めて制定された1978年当時は「示」偏の正字を採用していたが、1983年の改正で「ネ」偏の略字に変更された。しかし、それに対する批判などから、2004年の改正で再び「示」偏の正字に戻したという経緯がある。

「祇」の字形の移り変わり
JIS「例示字形」の変遷

JIS規格が制定される以前の1954年に発行された「直江津町史」では「示」偏の正字が使われているのに、2002年発行の「上越市史 通史編6」では「ネ」偏の略字が使われていることからも分かる。

パソコンの標準フォントではしばらく「ネ」偏が使われてきたが、WindowsはVista以降、macOSは10.5以降で、2004年に改正された字形(つまり「示」偏のほう)の標準フォントが搭載された。

八坂神社由緒
八坂神社由緒

また、教育庁文化行政課が根拠にしている「八坂神社由緒」は、古文書などではなく、同神社が近年に作成した印刷物である。市外局番が025となっていることから、2002年以降に作られたものと推測できる(それ以前は市外局番が0255だった)。

「ネ」偏を使い続ける上越市

上越市は、2004年のJIS規格改正で「示」偏に戻った後も、「ネ」偏の略字を「正式」とし、ポスターや印刷物に使い続けている。

しかし、市のホームページでは、特に古い端末で読まない限り、「示」偏で表示される。また、文章を「ネ」偏で入力したつもりでも、メールなどで送れば、多くは相手側で「示」偏に変わるだろう。新聞や雑誌も、ほとんど「示」偏を使って報道しており、「ネ」偏は今後ますます、肩身の狭い思いをしそうだ。

教育庁文化行政課では、「どちらでも間違いではないが、氏に下線がある『祗』は違う文字なので注意して」と話している。