「NORIN TEN~稲塚権次郎物語」の稲塚監督 上映前に映画の思い語る

世界の小麦の70%以上の基になる親品種を育てた農学者の生涯を描く劇映画「NORIN TEN 稲塚権次郎いなづかごんじろう物語」が2016年6月25日から7月8日まで、新潟県上越市本町6の高田世界館で開かれる。権次郎の遠縁にあたる稲塚秀孝監督(65)が5月18日、上越市内で会見を開き、映画に込めた思いを述べた。

映画について語る稲塚監督
稲塚監督

稲塚権次郎(1897年~1988年)は、「小麦農林10号」(ノーリン・テン)の育成者として知られる。草丈が短く倒伏しにくい上、病気に強く、収量が多い特徴があった。戦後、アメリカのノーマン・ボーローグ博士が、メキシコ品種と交配させて新品種を開発し、海外で広く栽培された。多くの国の食糧不足を救ったことから「緑の革命」と称えられ、博士は1970年にノーベル平和賞を受賞した。権次郎とボーローグ博士は1981年に開催された日本育種学会で初対面を果たし、博士は権次郎の功績を称えた。

権次郎は、コシヒカリの基となる「水稲農林1号」の育種にも関わっており、新潟県との縁もある。

映画のポスター
ちらし

富山県の貧しい農家で育った権次郎は、富山県立農学校時代にダーウィンの「種の起源」と出会い、東京帝国大学へ進学。農商務省で水稲や麦の育種に取り組んだ。退職してからは故郷に戻り、病気の妻イトの介護をしながら、土地改良事業や循環型農業などを進めた。映画では、晩年の権次郎を仲代達矢、15歳からの青壮年期を仲代が主宰する無名塾出身の松崎謙二が演じている。

稲塚監督は、祖父のいとこが権次郎という血縁があり、昭和30年頃、住んでいた北海道に権次郎が来た記憶があるという。仕事でテレビの番組制作や、記録映画にかかわっているため、ドキュメンタリー映画の構想もあったが、既に関係者が亡くなっており、構想は宙に浮いていた。5年前、権次郎の故郷、箕谷で開かれている「権次郎まつり」を尋ねた際、晩年の権次郎を知る人から話が聞けた。そのため、晩年のエピソードを生かし、仲代達矢さんを主役にした劇映画としての制作を決意したという。

映画は2014年6月から2015年2月にかけ、富山県南砺市などの美しい田園風景の下でロケを行って撮影。地元エキストラ700人を含む約1500人の住民らの協力を得て完成した。昨年9月に全国公開され、これまで10都道府県の計32館で上映された。本県での上映は、高田世界館が初。

稲塚監督は「大正から昭和にかけ、夢を持って育種をし、家族を支えて生きてきた人間としての強さが伝わるといい。コシヒカリのルーツを、このような育種家が作ったことを、新潟の人に見てもらいたい」と話している。

6月26日には、稲塚監督の舞台あいさつが予定されている。

↓上映時間などは高田世界館の公式サイトへ
http://www.baba-law.jp/sekaikan/

予告編動画