「トキ鉄を全国区に」鳥塚亮氏が新社長に就任 記者会見で方針など述べる

えちごトキめき鉄道(本社・新潟県上越市)は2019年9月9日、上越文化会館で臨時株主総会を開き、社長に内定していた鳥塚亮氏(59)が代表取締役社長に就任した。

握手する鳥塚新社長(左)と、島津元社長
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2代目の社長に就任した鳥塚氏は、千葉県・いすみ鉄道再建での実績と、ユニークなアイデア、情報発信力が評価され、新社長に応募した81人の中から選ばれた。

鳥塚氏は「私は社長室から出て、東南アジアの人を含め、全国の人にトキ鉄と聞いたらピンとくるようにするのが仕事。トキ鉄沿線が全国区になれば、特産品も売れる。インフラの使命として、地域をどう利するかが問われている」などと抱負を述べた。

同日付で退任した嶋津忠裕元社長(74)は、「(鳥塚社長に)コスト削減や、雪月花の運行本数の増加、一般客の増加や関連事業収入の増加に期待したい。いすみ鉄道を有名にした実績があり、本当に素晴らしい方に来ていただいた」と期待を述べた。

就任後の記者会見で質問に答える鳥塚新社長
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一問一答

記者会見での一問一答は次の通り。

——社長に応募した理由は。

鳥塚 直江津は新潟県の鉄道発祥の地。先人が脈々と築き上げて運営してきた鉄道として魅力に感じる。鉄道を大事にするということは、歴史も大事にすることだと思う。それが魅力であり、開拓していく部分だと考えている。

——トキ鉄でどんなことをやりたいか。

鳥塚 まだ、地域にどのような人が住み、会社にどんな人材がいるかも分からない。地域鉄道は地域あってのもの。地域の力を知った上で、その力を発揮してもらうためのコンダクター(指揮者)が社長の役割だと思う。

——経営状況をどのようにみているか。

鳥塚 第三セクターの鉄道会社の中で、1、2を争う赤字が出ている会社だと認識している。特急列車が走っていたかつての路線を、特急列車が走らなくなって引き受けるわけだから、黒字になるわけがない。それは並行在来線の構造的な問題。努力をして赤字を切り詰めていかなくてはならないが、それだけでは解決しない。

全国で地域輸送が人口減、少子化でボリューム的に少なくなっていく。しなの鉄道、あいの風とやま鉄道、IRいしかわ鉄道などと違い、ここだけは県庁所在地を通っていない並行在来線なので乗客の数が限られる。それをマイナスと考えるのではなく、逆にプラスにできたらいい。高田に住居を構え、大雪が不安だが、それもプラスに考えて楽しいものを見つけていきたい。

——決意と再生の鍵は。

鳥塚 沿線人口が多く、責任の重さを感じる。今まで通りの延長線沿いに将来はない。安全正確に列車を走らせるというベースに立って、プラスアルファでどんなことをやっていくかがポイント。

——「雪月花」の評価は

鳥塚 “オール新潟”の非常に素晴らしいコンセプトで、運営が軌道に乗って集客が良くなっていると聞いている。問題は需要の波。まだ初期需要は上り坂だが、一段落したときにどうテコ入れするか。

色もいい。中国や台湾の人が喜びそうな色で、漢字で“雪月花”は分かりやすい。インバウンド需要を開拓してみたい。

——ほかの三セク鉄道との連携は。

鳥塚 県単位でブツブツと切れているのは国の方針だろうが、利用者目線で考えたらつながりが必要。夏に出した「トキ鉄18きっぷ」はJRとの連携輸送で、このようなお客様本位の部分を追求していく必要がある。

区間ごとに県境で切れているのは、あまりいい形ではない。問題なのはそこに需要があるかどうか。顕在需要だけではなく、潜在需要を含めた需要があるかどうか。需要があれば、ビジネスモデル化できるかどうか。コストばかり増えて売上にならないなら商売にならない。

相互乗り入れはATSや車両の形式など、技術的な問題もある。通常、中心地に向かう輸送はあるが、峠や県境を越えた地域輸送はあまりない。都市間輸送は新幹線になっているので、見極める必要がある。

——いすみ鉄道をやめて1年経つが、再びモチベーションを高めた理由は。

鳥塚 三セクは大きく分けると、トキ鉄のような並行在来と、いすみ鉄道のような国鉄の赤字路線を引き継いだ特定地方交通線がある。後者は沿線人口が厳しい。私がいすみ鉄道でやってきたのは、観光鉄道化することで、地域に観光客が来て、地域が有名になる、特産品が売れる、というようなビジネスモデルを作った。地域に利益をもたらす存在になれれば残れる。これを自分の形としてやってきた。

これからの10年間、この国の大きな問題となるのは並行在来ではないか。設備の更新が出てくるので、国を動かさないといけない。幸い、観光という点で国交省は“鉄道を上手に使え”というムードになってきた。それをとっかかりに、並行在来線の将来像を作っていきたいというのが、自分自身のモチベーション。

——いすみ鉄道では話題づくりに長けていたが、トキ鉄ではどんな話題づくりを考えているか。

鳥塚 鉄道にからめた地域の話題というのは、都会人がみんな求めている。旅番組などでローカル線がテレビに出ると視聴率が上がる。地域で地味な活動をしている方の情報などを提供するのが話題作り。

——モットーは

鳥塚 最近は“ウィンウィンの関係”と言われる時代になったが、これは売り手と買い手の話。鉄道のような地域に公的なサービスを提供する会社は、ウィンウィンの関係だけではなく、近江商人の「三方よし」(売り手よし、買い手よし、世間よし)というような部分が必要。つまり、利用客とトキ鉄と、地域の皆様の“三方よし”にしたい。

——地域住民へのメッセージを。

鳥塚 鉄道に対し「マイレール意識」をできれば感じてほしい。自分たちの鉄道を自分たちで上手に利用する…鉄道はツールであり、どうやって利用するか。昔は目的地に行くことが唯一の目的だったが、今はいろいろな使い方がある。我々はそれに対し、門戸を開いていきたい。おもしろいことがあったら、声をかけてほしい。

——今後、どのように動いていきたいか。

鳥塚 民間でビジネスを勉強している若い人たちが、スクールで学ぶイロハとして「アナグマ社長になるな」というのがある。社長室にこもっているだけの社長はだめだと。

列車の運転やお客様へのサービスは、プロのスタッフがいる。まずは社長室から地域に出ることが必要。そして東南アジアを含めた地域外の方に“トキ鉄”と聞いたらピンとくるようにするのが私の大きな仕事。

鉄道というインフラの使命は、地域をどう利するかということ。黒字にして株主に配当を出すというスタイルはできるかどうか分からない。でも、この会社がきちんと機能することによって、トキ鉄沿線が全国区になり、米どころでいいお酒や温泉がいっぱいある所だということを再認識してもらい、地域にどんどん人がくるようなシステムであれば、沿線地域に利益を還元することは可能。

房総半島の山の中のいすみ鉄道でもできたので、トキ鉄沿線の資源、人材、人口を考えたときに、まずはそこからやるべき。

——妙高高原駅はスキーリゾートの玄関口としてはいかがなものかという声がある。設備更新は優先順位があると思うが、どこから手をつけるか。

鳥塚 妙高高原駅の建物が古いから建て替えろという話だと、どこからお金が出るのかという話になる。私は古いのと汚いのは違うと思う。古いからだめだということではない。

全国共通のことだが、田舎の人は古いのは嫌いで、新しいものが自慢。でも、そうやってきて日本の田舎は魅力がなくなってきた。都会の人は古いのが好き。観光に来る人からみると、新しくしたら魅力がなくなる。大金をかけなくても、今あるものをどうやって使っていくかを最初にやるべき。

遊休土地をうまく活用して、駅を魅力的な場所にしていくことも考えていく。そこに都会の資本を持ってきてもいい。

——今後、値上げや運行回数の削減など、合理化による住民の負担はあるのか。

鳥塚 4年半前、トキ鉄になったときに運賃を値上げせずに据え置いている。値上げはその部分を回復させるもの。並行在来の中で、トキ鉄は最低限の運賃で来たということを理解いただきたい。

合理化というのはお金の計算。目先の計算をして将来需要がなくなってきたのがローカル鉄道。私は国鉄からずっと見てきているので、削るべき所と削るべきではない所はある程度分かっている。

鉄道会社として支出を減らしながら、利用客の利便性を損なわないようにする道はいろいろあるんじゃないか。なぜなら、それだけ魅力がある地域だから。

=おわり=

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