東郷平八郎揮ごうの戦争画、上越市の小林古径記念美術館で展示 小学校から美術館所蔵に変更

新潟県上越市立春日新田小学校にあった、連合艦隊司令長官東郷平八郎が揮ごうした日露戦争の日本海海戦を描いた絵画「三笠艦橋の図」(模写)が、同市本城町の小林古径記念美術館で開催中の企画展に展示されている。同作品は戦争画のため学校では長年カーテンで覆われた状態だったが、2023年2月に同館所蔵となり、展示可能な美術館で保管されることになった。

東郷平八郎が揮ごうした玉井力三の「三笠艦橋の図」(模写)

「三笠環境の図」(模写)を展示している小林古径記念美術館の企画展

描かれた東郷本人が揮ごう

絵はロシアのバルチック艦隊を対馬沖で迎え撃つ際の戦艦「三笠」の艦橋の様子を描いたもので、東郷のほか、参謀秋山真之などの海軍士官らが描かれている。日本の歴史の一幕を描いた絵画に、描かれた東郷本人が揮ごうした貴重な作品だ。

作者は同市柿崎区出身の画家、玉井力三(1908〜1982)で、海軍省の嘱託画家だった東城鉦太郎(しょうたろう、1865〜1929)が1926年(大正15年)に描いた「三笠艦橋の図」を模写した。玉井作の複製画は1929年(昭和4)には完成し、同年に模写を依頼した春日新田小の関係者が東京の東郷邸に絵を持参。東郷が日本海海戦で全軍に訓示した「皇国の興廃この一戦に在り、各員一層奮励努力せよ」の揮ごうと署名が記された。東郷の剣道の師や屋敷の庭師が春日新田小の地元有田村の出身であったことから、揮ごうが実現した。

2022年に東京で展示

絵は戦後に校舎内に隠され、1985年に約20年ぶりに発見されて一時校長室に飾られたものの、戦争画のため近年は校舎の一角で白いカーテンで覆われていた。戦後、玉井は小学館などの学年誌に子どもの表紙絵を描き続けたことから昨年、東京で特別展が開催され、同作品も展示された。これを契機に、絵は春日新田小から小林古径記念美術館に所管替えとなり、同美術館所蔵作品となった。

2022年に日比谷図書文化館で開催された特別展「学年誌100年と玉井力三―描かれた昭和の子ども―」

特別展では表紙絵や他の油彩画などと共に展示された

同校の戸田正明校長は「学校に寄贈されたものだが、せっかくの宝であり、広く多くの方に見ていただくことが大事と美術館にお願いすることになった」と語る。

絵は3月25日から開催されている企画展「あつめてのこす、ひろくつたえる〜新収蔵品から〜」で、2020年の同館開館以降に収蔵した上越ゆかりの44点の日本画や油彩画、彫刻、工芸品などと共に展示されている。伊藤舞実学芸員は「戦意を高揚する言葉も書かれているが、平和を望む気持ちで絵に向き合ってほしい」と話している。

企画展は7月2日まで。観桜会期間中の4月12日までは無休で、午後7時まで延長開館している。