公職選挙法には抵触しない?
鈴木市議は「『議員が有権者へ寄付行為を行っている』というような誤解を招いてしまった」とあくまで、「誤解」として、公職選挙法には抵触しないという立場を取り続けています。
寄附行為の禁止とは
まず、公職選挙法がどのように寄附行為を禁じているのか見てみましょう(条文は要約しています。全文はリンクを見てください)。
(公職の候補者等の寄附の禁止) 第199条の2 議員は選挙区内にある者に対し、いかなる名義をもつてするを問わず、寄附をしてはならない。
一般的にはこの199条の2はよく知られています。鈴木市議が言っているのはおそらくこれです。しかし今回、主に問題とされているのは、次のものです。
(公職の候補者等の関係会社等の寄附の禁止) 第199条の3 議員がその役職員や構成員である会社や団体は、選挙区内にある者に対し、いかなる名義をもつてするを問わず、議員の氏名を表示し又は議員の氏名が類推されるような方法で寄附をしてはならない。
今回のイベントでは、鈴木めぐみ市議が代表を務める「子ども食堂たまごのめぐみ」という団体が、鈴木市議の名を含む団体名「子ども食堂たまごのめぐみ」という表示をして、来場者に食事を無料で提供しました(分かりやすいよう、法律の要件に該当する部分に同じ色を付けています)。
また、「氏名が類推されるような方法」とはどういうことかについては、公職選挙法の実務上の運用等を詳細に解説している「逐条解説 公職選挙法 改訂版」(黒瀬敏文・笠置隆範/編著、2021年、ぎょうせい刊)では次のように説明されています。
例えば候補者「甲山乙夫」が代表取締役社長である会社の社名が「甲山商事株式会社」であるとした場合に、この社名を表示して寄附した場合は、「これらの者の氏名が類推されるような方法」によって寄附をしたこととなるものと解される。(同書1584ページ)
こうしたことを今回、上越タウンジャーナルは、選管などの取材を通じて報じました。
鈴木市議の説明
一方、報道を受けて、鈴木市議の説明です(以下、いずれも鈴木市議のSNSでの投稿です)。
善意の有無に関わらず「市議」が「寄付行為」を行うと公職選挙法に引っかかってきます。 今回、イベントでは↓の3つを行ったと考えています
1.「子ども食堂」が「協賛企業等から無料で提供を受けたものを無料で提供する」
2.「子ども食堂」が「費用をかけて調達したものを有料で提供する」
3.「子ども食堂」が「会場に設置した募金箱に入れられた募金を全額NPO団体へ渡す」
しかしながら、このうちの1番と2番を混同して、更に「市議」個人でやったかのように思われているため、 「市議」が「費用をかけて調達したものを【無料】 で提供する」 となり、それは違法ではないか?と思われてしまっているのかと思います。
鈴木市議はこうした説明により「公職選挙法に抵触していない」と主張していますが、なぜ抵触しないことになるのかは不明です。
一方、この説明で鈴木市議は、今回のイベントで1〜3を行ったと自ら認めています。
先の199条の3に照らすと、1と3は禁じられている寄附行為に該当すると考えられます。
鈴木市議 選管の対応について市長に抗議?
市選管はイベント開催前に鈴木市議に注意しています。
しかし、上越タウンジャーナルの報道を受けて、鈴木市議は次のように書いています。
市の選挙管理委員会からは、今回の子ども食堂のイベントについては何も注意されておりませんし、話題にすらなっておりません。このことは5/9、選管にも確認済みです。
これを見た複数の市民が、市選管に電話で問い合わせました。一部の市民が「選管は鈴木市議に注意したと言っている」とSNS上で鈴木市議に伝えたところ、鈴木市議は次のように書きました。
もしそれが、事実であれば、選管の担当者は個別案件の内容を第三者へ漏洩したことになります。市の選管に確認し、必要に応じて正式に市長へ抗議します。
市議会議員による公職選挙法に抵触する恐れのある行為について、市民の問い合わせに回答するのは市選管の仕事の一部です。市選管が事前に鈴木市議に注意をしたのは事実なので、選管は市民からの問い合わせに事実の通りに回答しているだけです。
選管は市長から独立した行政委員会です
また、市選管は市長から独立した行政委員会です。公正な選挙を執行するため、市長の権限は基本的に及びません。
選管の対応について、市長に抗議するという鈴木市議の表明は全く意味不明です。
もし仮に、鈴木市議の抗議の通り、市長が選管に何らかの働きかけをするとすれば、行政委員会の政治的中立性を侵害することになります。
協賛企業について
また、鈴木市議は次のように書いています。
イベント名が、「2022 子ども食堂たまごのめぐみ GWスペシャル in ライオン像のある館」のとおり、主催は子ども食堂となります。議員個人の活動ではありません。
協賛企業等も議員個人への寄付であれば、しなかったはずかなと思います。
企業による政治家個人への寄附は政治資金規正法で禁じられていて、企業は当然知っています。
今回問われているのは、先に説明した通り、鈴木市議が代表を務める「子ども食堂」が鈴木市議の名を含む団体名で、寄附をしたという点なので、議員個人の活動は関係ありません。
ちなみに協賛企業などについて鈴木市議は次のように書いています。
本イベントの後援の上越商工会議所様はじめ、数多くの協力企業、ご協力者様へ、子ども食堂たまごのめぐみより、この場を借りて御礼申し上げます
・カレー 業務スーパー様
・缶詰 株式会社中清様
・消毒液 アサヒグループ食品株式会社様(特定非営利活動法人ジャパンハート様の仲介)
その他協賛者様
また、常日頃より、新潟県子ども家庭課様、くびき野NPOサポートセンター様及びNPO法人 全国こども食堂支援センター・むすびえ様には、弊社及び県内の多くの子ども食堂へご支援を賜り、深く感謝申し上げます。
「寄附」は約束で成立
さて、食事の無料提供以外にも問題となる行為があります。ここで「寄附」の意味について、公職選挙法をあらためて見てみます。
(収入、寄附及び支出の定義) 第179条2 この法律において「寄附」とは、金銭、物品その他の財産上の利益の供与又は交付、その供与又は交付の約束で党費、会費その他債務の履行としてなされるもの以外のものをいう。
ここでいう寄附は一般的な用法より広く、将来の利益供与の合意である「約束」も含んでいます。
例えば、今回は募金箱が設置され、鈴木市議は「募金は全て くびき野NPOサポートセンターさんへ寄付させていただきます」と説明しています。
すなわち、同センターとの間で合意が成立しているなら、現実に募金が同センターに渡されていなくても、寄附が行われたことになります。
「ルールはルール」
公職選挙法関係では、昨秋の上越市長選で落選した候補側の確認団体が作成したビラなどが、市選管の指導の誤りで法に抵触する恐れがある内容で配布されたという問題がありました。
鈴木市議はその際、公職選挙法について、次のように投稿しています(2021年10月28日)。
ルールはルールですので、スポーツと同じようにそのルールを熟知しているものが試合、すなわち選挙活動を有利に進めます。
そして、このルールは絶対のため、ルール違反が分かると当選しても無効となってしまいます
さらに
私が懸念するのは、ミスはミスとしてもこんなニュースが全国ニュースになってしまうと、上越市民の方、特に若者達が呆れてしまい、政治不信に繋がってしまうことです ただでさえ投票率が少ない若者世代、どうにかしてリカバリーしなければうーん。
との意見を表明しています。
今回、問われている寄附行為も同じ公職選挙法という「ルール」で禁止されています。
そして、ルールには理由があります。公職選挙法が政治家による寄附行為を特定の場合を除き一切禁じているのは、金のかかる選挙を是正するとともに、クリーンな選挙を実現するためとされています。