新潟県上越市三和区大に県内で唯一、乳牛の飼育から搾乳、牛乳の瓶詰め、宅配・販売までを一貫して行っている小さな牛乳メーカーがある。梨本一郎さん(63)、厚子さん(59)夫妻と3頭の乳牛が作り出す「三和牛乳」は、近年、同市内のジェラート専門店やパン店、洋菓子店などで使用され、注目されている。「おいしい牛乳を届けたい――」。二人三“牛”の丑年が幕を開けた。
昔懐かしい牛乳瓶の紙の蓋を取り、「ゴクリ」と飲んだ一口目から、生乳本来の甘みとコクをしっかりと感じる三和牛乳。もともとは宅配のみを行っていたが、近年、その味が飲食店など地元の食のプロの間で口コミで広まり、同市内を中心にジェラート専門店やパン店、洋菓子店、レストラン、カフェなど今や約15店で使われている。「特に営業もしていなかったのですが、『使ってみたい』という声がかかりました」と一郎さん。
酪農と牛乳製造は1955年頃、農家だった一郎さんの父、博司さんが始めた。かつての旧三和村内には同様に酪農を営む家も多かったが、今では同社のみとなった。牛の乳を搾ったままの生乳を加熱殺菌した牛乳は、水や他の原料を加えたり、成分を減らしたりすることは一切できない。このため牛乳の味は、乳牛の種類や個体差はもちろん、餌などの飼育方法や環境、健康状態、季節などでも決まるという。
梨本夫妻は、牛の体調管理をはじめ、ストレスをかけないよう牛舎の掃除をこまめに行い清潔にしている。ホルスタイン種は暑さに弱く、夏は牛舎の窓を開けて裏の草原からの自然の風を取り入れ、扇風機や換気扇も使って暑さ対策を実施。夏バテをすると牛の体が酸性に傾くことから、梅雨明け頃から餌に重曹を毎日少しずつ混ぜて食べさせ、四つある胃の一番目の胃を弱アルカリ性にするようにしている。
「重曹をたくさん入れると餌がおいしくないだろうから、少しずつよくかき混ぜてやっています」と厚子さん。牛に対する酪農家の日々の心配りが、小さな牛乳メーカーを支えている。
夫婦二人で近隣の約250軒の1日おきの宅配や牛の世話を切り盛りする忙しい毎日。牛乳がジェラートやパンに形を変えて多くの人に味わってもらえることに手応えを感じている。
一郎さんは「丑年はもっと飛躍できる年にしたいですね」と語った。
牛乳1本税込み81円。直接購入可能だが、配達などで不在の場合があるので事前に連絡を。025-532-2481。