参加国同士の関税を完全撤廃する「環太平洋戦略的経済連携協定」(TPP)をめぐり、上越市でもさまざまな動きが出ている。10月の臨時国会で菅直人首相が交渉参加検討を表明した後、農業関係者の反発が強まっており、参加により壊滅的な打撃を受けるとの強い懸念がある一方、輸出関連の製造業にとっては追い風になるとの見方もあり国内の世論を二分している。上越市内でもJAえちご上越が2010年12月8日に緊急反対集会を開催。交渉参加反対の請願が審議されている上越市議会では立場によって、意見が真っ二つに分かれている。
■JAが緊急に反対集会■
JAえちご上越ではこの日に予定していた園芸振興大会前の時間を使って急きょ反対集会を開催した。
同JAの服部武・経営委員会会長が「日本の農産物市場はすでに十分開放されていて、その結果、先進国では最低水準の食糧自給率となっている、TPPに参加することが国民にとって何を意味するか考えてほしい」とあいさつ。続いて上越農業共済組合の中川耕平組合長、上越農地協議会の八木一郎会長職務代理があいついで登壇し「将来展望も示さず、問答無用の政府の対応に憤りを感じる」などと反対を表明。TPP交渉に参加しないよう求める決議を採択した。今後も署名や消費者を加えたさらに大規模な集会など引き続き反対運動を続ける方針だ。
ガンバローでTPP反対を確認(2010年12月8日、JAえちご上越の緊急反対集会)
■反対請願で議会二分■
「TPPを締結すれば日本農業は壊滅的な打撃を受ける」――。集会を開いたJAえちご上越(服部武・経営委員会会長)と参加した上越農業共済組合(中川耕平組合長)、上越農地協議会(八木一郎会長職務代理)の3団体はTPP交渉参加反対の請願を上越市議会に提出している。
上越市議会は12月2日の文教経済委員会で審議したが、議員からは「参加して日本の農業を守れるのか」「食料自給は国家安全保証の問題」「日本は世界に物を売っていかなければ生きられない。交渉のテーブルの着いて条件を話し合うのが日本の生きる道」などさまざまな意見が出た。また「今日の日本の経済を支えているのは製造業だが、今回の請願は農業のことだけを主張している。請願者にここに来てもらい話を聞きたい」など請願者の出席を求める意見も複数あった。
上越市議会では11月に成立した議会基本条例により、請願や陳情審査の際に請願者自身が議会に出席して直接説明ができる場を保証した。このため今回は請願者であるJAの代表者らが望めば自ら委員会に出席して説明できる。
委員会では14日再度、この請願を審議する。
■「農村議員少ない上越市議会」?■
8日のJAえちご上越の緊急集会で、登壇してTPP反対の意見を述べたのは請願提出者3人。壇上からもこの請願に言及した。
左からJAえちご上越の服部武・経営委員会会長、上越農業共済組合の中川耕平組合長、上越農地協議会の八木一郎会長職務代理
同JAの服部経営委員会会長は「妙高と上越の市議会に請願を出しているが、妙高市議会では成立する見通しとなった。上越市議会は農村議員が少なく、請願に反対が多い。もう一度14日に協議するとうかがっているが、何とか成立させてほしい」と話した。また上越農地協議会の八木会長職務代理は「我々の請願が継続審査とされているが、皆さん考えてください。合併した上越市の重要産業は農業。農業のないところに商工業は発展しない」と述べ請願の可決を求めた。
部経営委員会会長は上越市議会への出席説明について集会後、報道陣の取材に「特別にお願いしなければならないことがあれば行って説明するが、TPPの問題は説明するまでもないこと。行って説明するのも議員の皆さんが勉強するのも同じこと。議員の皆さんに良識を信じたい」と積極的には出席しない意向を示した。
■村山市長は慎重な見解■
農水省はTPP参加による生産減少額を年間4兆1000億円とする試算を公表しているが、経済産業省は不参加による輸出減を8兆6000億円と試算。政府内でも評価が割れている。
国論を二分している問題だけに村山秀幸上越市長は慎重な見解だ。7日、TPP反対の武藤正信議員の一般質問に対し「輸出中心の日本経済の構造を考えると経済連携の検討は必要であると思う」と政府の姿勢に理解を示した上で、「当市の基幹産業である農業への影響は極めて大きいと懸念している」と述べ、TPPをめぐる国民的な議論の行方を注視していく姿勢を強調している。