カマキリ博士の積雪予報は当たっていた!?

目次

1. 最深積雪などほぼ的中か
2. 酒井氏の予報の方法
3. 現在は独力で観測続ける
4. 弘前大の安藤名誉教授が反論

最深積雪などはほぼ的中か

20100128kamakiri

「カマキリが高いところに産卵すると大雪」という民間伝承をもとに、約50年前から冬の積雪深の予測を行っている長岡市の電気設備・通信設備会社の特別顧問、酒井與喜夫氏の今冬の予想「冬を占う」によると、「最深積雪はおおむね例年並み」としており、気象庁の「暖冬少雪」予報よりも"当たっている"結果となった。(川村)

まずは、2009年10月に発行された「冬を占う」のパンフレット(A4判8ページ)の予想を見てみよう。

表紙に書かれた概要「今冬の予想」によると、「寒気は例年より10日ほど早いようだが、その後少し足踏み。12月は中旬頃に大荒れとなりそう、その後年末頃までは意外に穏やかな日が続きそう。年末、年始は一転、大荒れと吹雪が続きそう。最深積雪はおおむね例年並み。海岸平野部では南部は少雪傾向、北部ではチョット多め。山間部では所によってはチョット多めの所もありそう」としている。

検証してみると、12月14日に上越市の平野部で初雪。15日は県内全域で雪が降り大荒れの天候になった。そして大晦日の12月31日午後5時すぎに大雪警報が発令され、正月は大雪に見舞われた。この辺の経緯はぴったり当たっている。

次に具体的な積雪深を検証してみよう。今冬から、各地の最深積雪の具体的な数字が掲載されている。このうち、上越地域のデータを抜き出してみた。

柿崎IC付近 95~107cm
大潟支所 88cm
頸城支所 121cm
吉川支所 135cm
浦川原駅 210cm
浦川原支所 225cm
安塚維持(県) 228cm
大島支所 270cm
上越IC 141cm
上越市役所 126cm
東北電力上越支店 115cm
高田公園 148cm
鴨島IC 150cm
三和支所 133cm
清里支所 220cm
板倉支所 120~160cm
新井PA 210cm
妙高PA 229cm
市民活動支援センター 196cm
中郷支所 208cm
いもり池 310cm
名立谷浜SA 40cm

今冬はまだ2月を残しているものの、酒井氏の「長岡を中心とした3か月予報」によると、2月、3月はぐずつく時期はあるものの、大荒れはない。すでに雪のピークが過ぎたとすれば、上記の積雪予想はほぼ当たっていると言えるのではないか。

酒井氏の予報の方法

20100128hon

酒井氏の予報は2003年発行の著書「カマキリは大雪を知っていた」(農文協)によると、カマキリは卵のうが雪に埋もれてしまわないように産むという。

というのは「カマキリの卵のうはウレタンのような発泡状をしており、一定の断熱効果や緩衝効果をもっています。しかし、気温によって膨張と収縮をくり返す深い雪の中で、長時間は耐えられません」と書いている。

さらに「雪は、表面はサラサラしていても、積もった下のほうは水分を含んで重く、比重は上部の2~3倍にもなります。もし、中途半端の高さに産み付ければ、卵のうは重く沈む雪に引きずられ、枝からも脱落してしまいます。そうすると卵は水に浸かったようになり、窒息状態となって、ふ化するのがきわめて難しくなってしまいます。といってあまり高いと、雪はクリアできてもエサ不足の冬の鳥の餌になりかねません」という。

そのため、カマキリは、最深積雪に等しい高さの枝に産卵するのだという。

だが、実際に産み付けられた卵のうの高さにはばらつきがあり、高低差は2~3倍に達することもある。

調査対象としていたスギの枝が雪の重みで上下に動くためで、酒井氏は雪の重みで枝がたれ下がった高さを基準とした。また、雪の吹きだまり、吹きさらしの状態、地形の傾斜や起伏、斜面の方位などでも変わってくることから、「もし平坦地であれば」という数値に補正している。

酒井氏は「カマキリが高いところに産卵すると大雪」を統計学的に説明可能であることを論文にまとめ、1997年に長岡技術科学大に提出し、博士の学位を授与されている。

ところで、酒井氏は現在、カマキリの卵のうの高さを計測し、統計的な処理によって、積雪予想を出しているのではない。

2000年からはカマキリが積雪を知る原理を応用し、木に取り付けた測定器で地中の微弱振動を拾うことにより、積雪予想、気象予想、地震予想などを行う方法に切り替えた。つまり「天からではなく地からの気象予測」である。

現在は独力で観測続ける

2002年度からは、(財団法人)新潟県建設技術センターが、酒井氏の監修のもとで、新潟県内の積雪予報(気象予測調査業務)を引き継いできたが、経費などの面から2008年度で業務を終了してしまった。

その後は酒井氏が一冬300万円かかるという調査を自費で行っている(ちなみに、これまで5億円もかけたのだという)。

酒井氏は「風水害などの予報は3か月前に予知しないと手の打ちようがない。予算がないと言うが、ほかの予算をけずってもやるべきことではないか」と話す。

酒井氏は積雪予報だけではなく、地震などの予報も行っており、「中越地震、中越沖地震、(2004年の)7.13水害も3か月前に予想していた」と言う。

ちなみに、今冬の予想の中でも地震についてふれており、「近くの歪みも収まりつつありそう。しかし、県北部から山形県酒田市、鶴岡市にかけて海岸部で歪みが大きくなったようだ。最悪の事態に備えてご用心」としている。さらに「引き金は満潮時や気圧が急激に下がった後に多い」という。

弘前大の安藤名誉教授が反論

東奥日報の2007年12月9日の報道によると、「『カマキリに積雪の予知能力があり、高い所に産卵すると大雪』という一般に知られた説に対し、弘前市の安藤喜一弘前大学名誉教授(68)=昆虫学=は検証の結果、『誤りである』との結論を出した。この説は『カマキリの卵は雪に埋もれると死ぬ』ことを前提にしているが、雪の下に約4カ月間あった卵を採集したところ、97.9%が孵化し、卵には耐雪性があることが判明。産み付けられた高さも180センチ~18センチとまちまちで、大半が雪に埋もれて越冬することが分かった」としている。

安藤氏がこの説を2007年に学会で報告し、さらに、数か月間カマキリの卵を水に浸しておいても孵化率に影響がないことを2008年に学会で報告している。

これについて酒井氏が反論しなかったことから、この報道がブログなどに引用され、ネット上では酒井氏の長年の研究を疑問視する見方が強くなっている。県建設技術センターのホームページで「冬を占う」をダウンロードできなくなったことも影響しているかもしれない。

酒井氏に電話で尋ねたところ、「岩木山の周りを調べたのだろうが、どういう地形の場所で調査したかが不明。地殻変動の影響を受けていないところで調査しないとだめ。カマキリは地下の震動が良く聞こえるところに産卵する」などと、安藤氏の説を相手にしていない。50年にもわたり長年研究してきた意地を感じる。

さらに酒井氏であるが、先に引用したとおり、カマキリの卵のうは「雪に埋もれると死ぬ」とは著書に書いていない。「卵のうは氷点下15度で凍らせても大丈夫。一番だめなのは水浸しになることと、ひからびること」と話す。

両者の研究はどちらが正しいか、というより、研究の前提条件からすれ違いが生じているのではないだろうか。

弘前大の安藤名誉教授からのメール

上記の記事に対し、2010年4月2日、弘前大の安藤名誉教授が次のようなメールを送ってきた。

全文を引用し、紹介する。

「カマキリの雪予想」は間違いです。

私は貴ホームページに引用されている弘前大学名誉教授の安藤喜一と申します。酒井與喜夫さんの世界的研究とされる「カマキリの雪予想」はよく存じております。'97年の博士(工学)取得、数々の賞を授与され、「カマキリの雪予想」は"暮らしの手帳"に載り、 NHKが放映し、朝日新聞、読売新聞でも報道され、子供用の図鑑にまで引用されているもので、日本人の半数くらいは知っている超有名な話題です。酒井さんは英雄であり、新潟県では知らない人はいないと聞いております。

昔からの言い伝えである、「カマキリが高いところに産卵すると大雪」を科学的に立証したとして、高く評価されています。

しかし、結論から申しますと、「カマキリの雪予想」は仰天科学、ニセ科学、とんでもないデタラメで間違いです。その理由は田中誠二・小滝豊美・田中一裕編著「耐性の昆虫学」(東海大学出版会2008年6月)の中の「オオカマキリの耐雪性」安藤喜一(57-67p)、桐谷圭治・湯川淳一編「地球温暖化と昆虫」全農村教育協会(2010年2月)の中のコラム(ありえない話「カマキリの雪予想」)安藤喜一(260-261p)を読んでいただければ、お分かりいただけます。

酒井さんはカマキリ(正確にはオオカマキリ)の卵が雪に埋もれると死亡するとは確かに書いていないが、雪には耐えられないと著書の中で記しています。雪に埋もれると耐えられないから、積雪深を予知して、雪に埋もれない高さに産むという説明です。その説明を聞いた人は皆んな納得します。雪に埋もれない高さに産卵するしか生きる方策はないと考えます。その酒井さんのトリックにメディアをはじめ皆んな翻弄されたのです。

実際にはカマキリの卵包が雪の下や、雪の中になっても何の問題もありません。2007年弘前市は貴ホームページに示してある通り、ほとんどの卵包が雪の中で越冬し、春には正常に孵化しました。人為的に卵包を雪に埋めても、雪に埋めない卵包に比べて、孵化率はまったく差がありません。

2008年4月の調査で、除雪した雪が4mを超える高さに積み上げられた所にあった卵包からも正常に孵化しました。

新潟市、千葉県富津市、静岡県下田市、宮崎県高鍋町の卵包を、弘前の野外で50~80日間雪に埋めても何の問題もなく孵化しました。雪に一度も埋もれたこともない地域のカマキリの卵ですら、積雪には十分耐えられるのです。酒井さんは卵包が浸水すると窒息死すると言っていますが、それも思い込みです。冬であれば(水温0~7℃)30日間連続浸水でも死亡率7%、60日浸水でも23%の死亡率でした。25℃で浸水なら7日で卵は死亡します。

酒井さんはまさに天才です。文章はうまいし、自分の考えた通りに人を納得させることができるのです。しかし、酒井さんの研究データを見ると、カマキリが雪の多い年は高い所、雪が少ない所に産んでいないのに、補正と称して実際のカマキリの卵の高さを積雪深に合うようにしているだけです。豪雪地から少雪地に、逆に少雪地から豪雪地にカマキリの卵包を移すと、(みごと!移動先の積雪深を予想)と著書に書いていますが、それも実際の積雪深に合うように補正しただけの話です。

酒井さんは実験で確かめることなく、思い込みで研究しているようです。ただし、酒井さんは悪気はなく、一生懸命研究してきたことは認めます。酒井さんの研究はとびぬけて面白いのです。あり得ない話が、あり得るというから面白いのです。学位審査員も全員が、まともに論文を見なかったのです。無理もありません。工学部の先生がカマキリの事は分からないのは当然です。外部から有名な動物行動学者の日高敏隆先生(昨年11月に死去)が学位審査に加わりましたが、酒井さんのトリックに気付かなかったのです。私は2006年9月の学会(鹿児島大学)で、日高敏隆先生に直接会いましたが、「自分達は間違えた」と言われていました。

酒井さんはcm単位で積雪深を予想しています。木の微弱振動を測定して、積雪深を予測できるとしていますが、何の根拠もありません。「積雪量予想装置および方法」で酒井さんは特許を申請していますが、認められませんでした(米国特許は認められました)。

結局カマキリは雪を予測する必要は全くなく、大雪の年に高い所に高い所に産むわけでもありません。酒井さんは多くの植物にカマキリが産卵するのに、スギの木に付いた卵だけを調査対象として面白い笑い話を、科学であると称しているだけです。

いつか酒井さんと直接話し合いたいものです。何と説明するか?聞きたいものです。

以上長文を記しましたが、私は「カマキリの雪予想」は間違いであることを立証できる動かぬ証拠を得ております。

科学は面白ければそれで良いのではなく、真実が伝えられるべきと考えております。何かご質問がございましたら、いつでも対応させていただきますので、よろしくお願い申し上げます。