現代の日常生活で、なくてはならないものとなったスマートフォン。便利になった一方で、情報技術を駆使した悪質なサイバー犯罪のターゲットとなる被害は年々増えている。ここ上越地域も例外ではない。上越警察署でも、スマホやパソコンのデータ解析や情報追跡など、サイバー犯罪の捜査手法を身に着けた “サイバーポリス” が活躍している。大平美智夫巡査部長(36)だ。民間のITエンジニアから警察官へと転身した彼は、新潟県警生活安全部にサイバー犯罪対策課ができた2014年4月、同課に配属。昨年4月からは上越署生活安全課で勤務している。
数千の画像から1枚を復元
スマホが普及した今、あらゆる事件にスマホのデータ解析がついて回るという。サイバーポリスとして、スマホから消去されたデータを復元し、膨大なデータの中から犯罪の立証に必要なわずかな証拠を探し出す。
SNSやファイル共有ソフトに流れる児童ポルノ画像を探し出し、追跡、捜査することもある。県警本部のサイバー犯罪対策課に所属していた際に担当した児童ポルノ画像の解析では、スマホから削除された数千枚の画像の中から、事件に関する特定の1枚を復元した。「何日もかけて解析して抽出した情報で犯罪が裏付けられたときは、とてもやりがいを感じた」と話す。
「技術の悪用許せない」
新潟県魚沼市出身。青森公立大大学院で経済学を学んだ後、東京のシステム開発会社に就職した。損害保険会社のシステム構築に携わっていた頃、クレジットカードの番号などを不正に入手するフィッシング詐欺などの犯罪が横行していた。ニュースを見るたびに、「これだけ大変な思いをしてシステムを作っているのに、悪用するのは許せない」との思いが強まり、5年勤めた会社を退職。「取り締まる側になりたい」と故郷の新潟県警を受験した。
エンジニアとしての知識と経験
C言語やCOBOLなどのプログラミング言語を大学院で身につけ、経済事象のコンピュータシミュレーションなどを研究した。プログラミングやコンピュータ全般に関する知識と経験は、その後就職したシステム開発会社でさらに磨いた。
「コンピュータの基本的な知識によって、まずどこから手を付けて何をすればいいか見通しを付けられる」「違法な目的のプログラムが何を狙っているか調べる時なども、プログラムやコンピュータの普遍的な知識が求められるため、前職までの経験が大いに役立っている」と話す。
多忙のなか勉強、スマホは2台持ち
サイバーポリスとはいえ、パソコンに向かってばかりもいられない。生活安全課の警察官として、普段はごみの不法投棄などの案件も担当し、通報などがあれば現場に急行する毎日だからだ。
そうしているうちに次々と新たな技術が登場してくるのがITの世界。「技術の変化に追従するのは大変だが、犯人が私より詳しかったら隠されているものも見付けられない」とエンジニアとしての日々の学習は欠かさない。ハードウェアからOS、ソフトウェア、ウェブサービスなどまで幅広く目配りする。スマホもiPhoneとAndroidの2台を所有している。捜査の際にどちらのスマホが持ち込まれてもスムーズに対応するためだ。
パソコンの知識だけでは不十分
「パソコンの知識だけあればできる仕事ではない」と話す。2010年の秋に県警に採用されサイバー犯罪対策課に配属されるまでの2年間、佐渡東警察署で交番勤務を経験した。特定分野の事件だけではなく、交番にはあらゆることが飛び込んでくる。
「佐渡での勤務は警察官としての仕事を知る上では、とても大きかった」。「パソコンの知識があっても、捜査のためにどういう証拠が必要かなど、実際の捜査の手続きを知らなければ不十分」と話す。
巧妙化する最近の手口
スマホの普及などで、サイバー犯罪の手口は年々巧妙化している。例えば最近は、スマホの無料通信アプリで知り合った異性とビデオチャットをしているうちに電話帳データなどを抜き取られ、録画映像をその連絡先にばらまくなどと脅迫して現金を要求する手口が増えているという。
より身近な例としては、ストーカーが元交際相手のスマホに位置情報を共有するアプリをこっそりインストールしてつきまとう事案がある。このような相談を受けた場合に、こうしたアプリがインストールされていないかチェックするのも仕事の1つだ。
便利さの裏側にあるリスク理解を
上越警察署のサイバーポリスとして、こうした犯罪に日々向き合っている。「日常生活に欠かせなくなったスマートフォンは、通話やメッセージはもちろん、クレジットカード情報を入力した買い物もできて便利だが、何でもできて便利な分犯罪に巻き込まれるリスクも大きくなっている。リスクを十分に理解して活用してほしい」と呼びかけている。