新潟県上越市内の寿司店や菓子店の包装紙やワインボトルのラベルデザインでも知られ、2023年の今年、生誕110年を迎えた同市ゆかりの陶芸家、齋藤三郎(1913〜1981)の芸術を回顧する展覧会「生誕110年 齋藤三郎展」が、高田城址公園内の小林古径記念美術館で開かれている。10月9日まで。
齋藤の大規模な回顧展は1998年に旧上越市立総合博物館で開催されて以来25年ぶりとなる。今回は陶芸分野の県内における先駆者として知られた齋藤を「修行時代」「高田築窯」「泥裏珠光」「生き続ける芸術 書画とデザイン・二代陶齋の仕事」と時代ごとに全4章で紹介。会場には市内の個人をはじめ、美術館などが所蔵する焼き物63点、書画16点、関連資料30点、齋藤の次男で陶芸家の尚明さんの作品3点の計112点を展示した。
1946年から高田に移住し作陶
旧栃尾市出身。兄の勧めで18歳で陶芸家を志し、人間国宝の近藤悠三に入門した。後に富本憲吉の下で技術を磨いた。独立後は兵庫県の寿山窯で制作し、兵役。けがを負い、1946年に兄が住職をしていた当時の高田市の久昌寺に家族と共に移り住み、寺の裏に窯を築き、作陶を再開した。
その後は多彩な作風を展開。常に新しい技法や釉薬を試し、独自の文様を作り出していった。東京から疎開していた小田嶽夫や堀口大學、濱谷浩ら芸術家や作家との交流も作品に深みを与えたという。
岩の原ワイン「深雪花」のラベル原画も展示
陶芸以外にも寿司店「富寿し」やアートサロン「遊心堂」などの包装紙、岩の原葡萄園のワイン「深雪花」のボトルラベルのデザインで知られている。同美術館によると、今回の展覧会に足を運んだ人たちが、なじみのあった包装紙やラベルが齋藤のデザインであることを初めて知った人たちも多くいたという。「昔のデザインなのに古くない。逆に新しく感じる」という声も多くあった。
齋藤の次男、尚明さんは父について「地方で焼き物をやるだけでも大変だったと思う。公募展に一切出していなかったので名前は知られていなかったが、亡くなって数年経ってから知られるようになった。作品の真価が発揮されたと思う」と話している。同美術館学芸員、市川高子さんは「戦後の高田で焼き物づくりを始め、まちの人たちに親しまれた上越ゆかりの陶芸家がいたことを子供たちにも知ってもらえたら」。会場には齋藤の作品や焼き物について学ぶ子供向けの鑑賞ワークシートも用意している。
作品に触れる「タッチ&トーク」は9月16日
9月9日午後2時からは樹下美術館館長で医師の杉田玄氏が齋藤の作品を前に人となりや芸術について語る。9月16日午後2時からは「作品を手にとって良さを感じてほしい」と作品に触れることができる「タッチ&トーク」も行われる。このほか、土日曜、祝日限定で、齋藤の制作の様子が記録されている貴重な映像「雪国の窯」が上映される。1973年に撮影されたもので、上映時間は午前11時、午後3時の2回。30分間。いずれも参加無料だが、入館料が必要。
「さぶろうさん」は身分証明書提示で入場無料に
入館料は一般510円、小中学生は260円(市内の小中高生は無料)。期間中、名前が「さぶろう」の人が身分証明書提示で無料となる「さぶろうさん割」などもある。展覧会カタログも販売している。A5判88ページのオールカラーで、1冊1000円。小林古径記念美術館025‐523‐8680。