春日山を “聖地巡礼” の地に 「雪花の虎」作者の東村アキコさんが講演

上越商工会議所青年部(佐藤隆義会長)は2016年1月23日、新潟県上越市の春日山城などを舞台にした歴史漫画「雪花の虎」の作者、東村アキコさんを招き、上越文化会館中ホールで講演会を開催した。東村さんは漫画を描くきっかけや裏話を披露し、「舞台になった春日山などに『聖地巡礼』をする人が来たら楽しい」などと話した。

和服姿で講演する東村さん 東村1S

170人限定の講演会は、受け付け開始からわずか1日半で締め切る人気ぶり。当日は2時間前から並ぶファンもおり、ホールは熱気に包まれた。東村さんが和服姿で登場すると「ほぉー」というざわめきが会場から沸いた。 東村さんは、俗説の「上杉謙信女性説」を漫画化しようとした理由について「10歳の息子が、戦国武将が戦うテレビゲームをやっていて、謙信のキャラクターが女だった。大河ドラマの『風林火山』では中性的なGACKTさんが謙信を演じた」ことが頭にあったという。宝塚ファンであることから、「漫画が宝塚の舞台になれば、日本版のベルばらになる。原作者として最前列の席が取れるかもと期待した」と裏話を語った。 2014年8月に取材で上越市を訪れ、春日山城址に立ったとき、「目の前に映像が浮かんだ。東京に帰って、出だしの第1話を一気に描いた」という。 単行本は2月12日に第2巻が発売される。「おかげさまで、漫画が売れてきた。ドラマや映画化されるよう頑張りたい」などと話した。 約1時間の講演の後は会場からの質問に答えた。子供からの「漫画家になるにはどうしたらいいか」という質問には「美男美女は誰にでも描ける。サブキャラ(脇役)を描ける人はすぐ(漫画家に)なれる」とアドバイスしていた。

東村アキコさんの講演の主な内容

○……この「雪花の虎」を描く前はギャグ漫画、コメディー漫画ばっかり描いていた。もしくは普通の恋愛物の少女漫画ばかり書いていて、真面目な作品はこれが初めて。 ○……私は歴史に興味がなく、大河ドラマを見るくらい。5、6年前に上杉謙信女性説の本を見掛けたが、手に取るわけでもなかった。それを忘れていたら、10歳の息子が戦国武将が戦うテレビゲームをやっていて、上杉謙信のキャラクターが女だった。 大河ドラマでGACKTが謙信をやっていたが、中性的で、髭もじゃの武将ではない。「武田信玄」では柴田恭兵が謙信をやっていた。いずれもわりと不思議な感じの色っぽい人がやった。本を読んだら、結婚していない、子供がいない、男はかぶらない頭巾をしていたなど、(女性説の)根拠がいくつもあった。 ○……宝塚が好きで、「ベルサイユのばら」ではオスカルが女だけど男のように育てられる。漫画が宝塚の舞台になり、日本版のベルばらになれば、私は原作者ということで、宝塚の最前列が取れるかもしれないと、にわかに盛り上がってきた。 しかし、アシスタントは歴史物をやったことがないので、馬や鎧、城などが描けない。私が原作をやり、うまい作家がいればできると思っていた。 編集さんの飲み会でそんな話をしていて、月刊コミック誌『ヒバナ』が小学館から発刊されるという。編集長らが「東村さんが描けば大丈夫」と言ったのを、私が酔っ払っていて「うん」と言っちゃって、帰ってから青ざめた。 ○……「1回取材に行きましょう」ということになり、上越市に春日山城があると知った。上越市の観光ボランティアガイドを務める柳沢勝也さんにガイドしてもらって、丸一日巡った。 春日山城にゼーゼー言いながら登った。漫画家というのは不思議なもので、謙信が当時、どういう暮らしをしていたのかが、目の前に映像で浮かんだ。歩くと、キャラクターがどう生きていたか、リアルに出来上がっていく。これは描けちゃうなと思った。 東京に帰った日、子供を預け、ファミレスに行って、バババって描き始めた。いきなり出だしのシーン、第1話で描いちゃった。顔も一発で描いた。それを見てもらったら「じゃ、やりましょう」となった。嵐とデビューが一緒で、漫画家になって17年目だが、“降りてきた”のは、今回が初体験だった。 ○……林泉寺の宝物館に、謙信の肖像画がある。謙信が生きているときに絵師が描いた唯一の肖像画だ。髭が皆無、色が真っ白でなで肩、手が小さくてふっくらしている。口と頬に紅をさしている。森光子みたいなフォルムで、完全におばあちゃんだ。 私は金沢美大の卒業生で、美術科の油絵専攻。肖像画を描くから分かるけど、これは「若くきれいに描いてあげよう」という絵。たおやかな、ふんわりした、優しげな美しいおばさまの絵だ。 ○……私、新潟の人は怒ると思っていた。抗議がきて炎上すると思ってビクビクしていた。「私は(謙信が)女だと思うんですよね」と押し切っちゃってるし。 ○……茨城県の大洗市に子供と海水浴に行ったら、アニメ(「ガールズ&パンツァー」)の舞台になっていてオタクの人であふれていた。アニメに出てくる道を写真を撮りながら楽しそうに歩いている。どこのお店もアニメにまつわるものを売っていて、スタンプラリーをやっていた。このような『聖地巡礼』がはやっている。 上越には山城がいっぱいある。『聖地巡礼』で(漫画の舞台を)巡る人がいたらすごく楽しい。おかげ様で漫画がわりと売れてきたが、ドラマや映画になってくれるとうれしい。(ドラマを見た)『聖地巡礼』の人がやってきたと思って、今からいいキャッチコピーを考えておいてほしい。

満席になった会場 会場S

会場との質疑応答

Q. 女謙信のイメージに一番近い俳優は? A. 天海祐希さん、柴咲コウさんなど、眼力があって、スッピンでもかっこいい人。宝塚だと、だいもん(望海風斗)さん。 Q. 何作も同時に描いていて混乱しないか A. 6、7本連載しているが、キャラクターが自分の中にいるので、こんがらがることはない。毎日違う人と遊びに行っているような感じで、ストレスがない。 Q. 絵はどうやって描くのか(子供) A. 開明墨汁で墨汁をペンにつけて描いている。君ぐらいのときからお絵かきが好きだった。 Q. 上越で印象に残った観光地はあるか A. ゆかりの場所はもちろんだが、五智の海岸にジェットスキーをする人がいた。観光に来た人に『海も近いんですよ』と。ちょっとビールが飲めるカフェでもあったらいい。 Q. 漫画家になるにはどうしたらいいか(子供) A. 友達の似顔絵を描くこと。美男美女は誰でも描ける。サブキャラ(脇役)を描ける人が少ない。私は脇役でここまで来た。きらいな先生や、あこがれていない人の顔を描いたりするのが近道。 Q. 原画を見ることができないのか A. 秋田で原画展をした。本になっちゃえば、原画に執着がなくなるし、デジタルでスキャンして残っている。上越市でそういう機会があれば、(原画を)ダンボールに入れて送る。「雪花の虎」はカラーがきれいなので、見てもらいたいと思う。

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