新潟県妙高市池の平の「いもり池」でいま見頃を迎えているミズバショウに、甘い香りがあることをご存知だろうか。訪れる人に解説をしている環境省パークボランティア歴30年の中村始さんは、「朝方、風がなければミズバショウの香りが楽しめますよ」と話す。
ミズバショウはサトイモ科ミズバショウ属の多年草。同時期に咲く紫褐色のザゼンソウも同じ仲間で、悪臭で知られる。コンニャクの花も臭いし、サトイモ科の花は悪臭を持ったものが多い。
上越植物友の会の小川清隆会長に尋ねたら、「においは確認していないが、アメリカでミズバショウはスカンク・キャベジと呼ばれ、悪臭があるとされる」と言う。さらには「受粉のためハエやハナアブを誘うなら、必ずしもいいにおいでなくてもいいはず」とも言う
果たしてミズバショウは甘い香りがするのか、もしくは悪臭なのか、いもり池に通って確かめてみた。もちろん条件はある。
- 咲き始めて間もないころから最盛期にかけて
- 風のない早朝
- 群落になっている場所
まずは、ミズバショウの花に鼻を近づけてにおいをかいでみた。不思議なことにまったく香りがない。
あとは池のほとりで持久戦だ。カメラのファインダーを覗きながら構図を考えていたとき、ふっと良い香りが漂ってきた。「甘い香り」としか表現のしようがないのが残念だが、刺激がない優しい香りであることは間違いない。
ネット上でミズバショウの香りについて書かれたブログなどを検索してみた。「線香の香りと花の香りが混じったような匂い」「焚きたてご飯に香水をぶっ掛けたような香り」「香水のような甘い香り」「百合の花に似た香り」「甘いでもなく、さわやかでもなく、誰もが好感を持てる良い匂い」「青いさわやかな匂い」……実に多様な感じ方で、香りの表現の仕方の難しさが分かる。
おならや糞便の悪臭の元であるインドールやスカトールは、香水に欠かせない成分である。インドールは薄めるとスミレ、スカトールはジャスミンやジンチョウゲのような香りに変化するという。これと同じに、ミズバショウが持つ悪臭が、薄まることで良い香りに化けたものだろうか。