謙信公の義の精神が小説に 上越市も登場

群馬県前橋市で内科医院の院長をしている茂木一通さん(55)が2011年10月15日、現代日本が抱える東京と地方の地域間格差や官民の格差をテーマにした小説「我欲」を幻冬舎ルネッサンス(東京)から発刊した。現代の日本人が持つ「我欲」の醜さを、越後が生んだ上杉謙信の「義」の精神を対比させて描いており、物語の後半には新潟県上越市の春日山城や林泉寺、直江津の駅前商店街などが登場する。

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茂木さんは小学生のときにNHK大河ドラマ「天と地と」を見て上杉謙信の大ファンに。上越市の春日山城には子供のころに数回立ち寄っているほか、謙信公祭にも3回訪れた。

私利私欲を捨て正しい行いを守る謙信の「義」の精神の対極にあるのは、突き詰めれば「どちらが得か」という現代人が持つ合理的精神で、人間の限りない欲望、つまり「我欲」だとする。これが小説の根幹を成す。

もう一つの軸が、地域間格差と官民格差だ。茂木さんは「交通機関や買い物、文化施設など、何でも東京は便利で地方は不便。地方の犠牲の上に東京がある。そして、既得権益を守ろうとする公務員と、民間の格差は広がる一方だ」という。そして「この二つが日本の最大の問題。これを小説というスタイルで表現してみた」と話す。

時代背景は終戦直後から、学生運動が盛んな昭和40年代前半を経て、高度成長期にかけて描かれる。貧しさや不平等を政治の不公正さから来るものと思い、金や男への欲を当然と思って押し通すことで、得をする人生を送る星朝子と京子の親子を主人公に、朝子に裏切られた福島の純朴な農家の青年と、京子が子供を身ごもったことで訴えられ、責任をとらされる直江津の味噌・醤油醸造元の跡取り息子を描く。

474ページの大作で、定価は1890円。全国有名書店のほか、Amazonなどのネット書店で販売している。また、茂木さんは高田と直江津の図書館に著書を寄贈している。

茂木さんは「上杉謙信公ファンは上越だけでなく、全国にも多いと思う。ぜひ、ひとりでも多くの人に読んでいただき、上越市の観光宣伝にも一役買いたい。そして、現代日本人に増長している我欲と、上杉謙信公の義の精神を考えていただきたい」と話している。