雪山から大木を切り出す「大持引(だいもちひき)」の再現が2024年2月12日、新潟県上越市皆口の山林で行われた。伐採した木をソリに載せ、雪の上を滑らせて人力で山から搬出するもので、行われたのは16年ぶり。約20人の一般市民も見学し、重機のなかった時代の雪国の知恵と技に触れた。
大持引はかつては冬の山仕事として行われていたという。雪国ならではの知恵と技を後世に伝えようと、過去に同市中ノ俣の住民有志が再現したこともあったが、メンバーの高齢化などで16年間行われていなかった。
昨年、中ノ俣や皆口集落で活動するNPO法人かみえちご山里ファン倶楽部のスタッフがくびき野森林組合の理事に就任したことなどから、初めての共催イベントとして一般見学者を募集して行われた。
見学者らは例年より少ない1mほど雪が積もった山に登り、樹齢約60年、高さ約25m、根本の直径約60cmの杉の伐採から見守った。伐採した杉は森林組合の職員らがチェーンソーで枝打ちをして長さ約4mの丸太にし、二本ゾリに乗せた。NPOのスタッフや関係者も加わり、総勢約30人がソリを引いた。
丸太の重さは約700kg。平坦な所では「ヨイサー、ヨイサー」と掛け声をあげながらソリを引き、急斜面ではスピードが出過ぎないよう、ブレーキとなる後方のロープを引く人員を増やすなどした。ジグザグの山道のカーブではてこを使って合図とともに全員で丸太を動かし、方向転換を繰り返した。
約1時間半をかけて丸太2本を切り出し、1本は途中まで、もう1本は温泉宿泊施設のくわどり湯ったり村の駐車場まで運んだ。
前日から泊まりがけで参加し見学した市内の女性(57)は「スピードが出てひやひやすることもあったが、自然の力と一人一人の人間の力が合わさり、大きな力になったことが感じられた」と感心していた。
くびき野森林組合の横田力理事長(70)は「大持引は子供の頃に見たことはあったが実体験はなかったので、これほど大変とはと思いつつも、(丸太が)こんなにスルスルと滑って山から出てくるとは思わなかった。大成功。来年もやりたい」と話した。
かつて中ノ俣集落で大持引を再現した、かみえちご山里ファン倶楽部の石川正一理事長(73)は「16年ぶりで感無量。今は人が大声を出して馬鹿力を出すことがない。みんなが知恵を出して目的地まで運ぼうと、一糸乱れず必死にやるのが大持引のいいところ」と語った。