累計300万部を超える空前の大ベストセラー『告白』の著者、湊かなえさんの新刊『山女(やまおんな)日記』(幻冬舎)に、日本百名山として知られる新潟県の名峰、妙高山(2454m)と火打山(2462m)が登場した。2つの山を縦走するコースとして2章にわたって描かれ、計80ページに及ぶ。7編の連作になっており、いろいろな悩みや思いを抱いて頂を目指す女性を描きつつ、登山の魅力を余すことなく紹介している。
新著は2014年7月10日に発行された。「告白」をはじめ、「往復書簡」「白ゆき姫殺人事件」「夜行観覧車」など、映画やドラマにもなった超売れっ子作家が、なんと山岳小説に挑戦した。作者自身が実際に登った山を題材にしたもので、今までのドロドロとした作風とは全く違う作品に仕上がった。
妙高山から始まり、火打山、槍ヶ岳、利尻岳、白馬岳、金時山、そしてニュージーランドのトンガリロが舞台となる7つの短編連作集。結婚への迷い、離婚の危機、父との関係、姉への劣等感など、女性がそれぞれの悩みを抱えて山に登り、人生の次の一歩を踏み出す力を得る。章ごとに主人公が変わるが、最後まで読むとそれが大きな相関図になっているという趣向だ。
冒頭の妙高山の章では、結婚に踏み切れない律子は、仲人を頼んだ部長と不倫中の同僚、由美と妙高、火打の縦走をすることになる。二人とも初登山である。不倫をしている由美の言動が何もかも気に入らない律子は、つい彼女に厳しく当たってしまうが…。火打山の章では、バブルにはじかれ40歳まで結婚に縁がなかった美津子が、見合いパーティーで山好きの神埼と知り合い、火打山に登る。二人 はそれぞれ自分を飾っていたが、美津子の一言で転機が訪れる。
特に火打山のハクサンコザクラ、チングルマ、ワタスゲといった植物や、高谷池の池塘や浮島、頂上からのパノラマなどが魅力的に描かれている。
湊さんは、山岳雑誌「山と渓谷」8月号のインタビューで「物語はわりと実体験に近く、私が最初に登った山も妙高山と火打山の縦走です」と述べたほか、「山で食べておいしかったものは?」の質問に対し、「妙高山の山頂で一緒になった中高年ご夫婦にいれてもらったインスタントコーヒーが一番」と答えている。
292ページ、1512円。