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川上善兵衛を知る一冊「越後えびかずら維新」

8年前

「日本ワインの父」と呼ばれる岩の原葡萄園(上越市北方)の創始者・川上善兵衛を、高田瞽女(ごぜ)森脇トヨの証言を元に、その苦難の道をノンフィクション小説の手法でたどる一冊「越後えびかずら維新」(小関智弘著)が小学館から発刊された。

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出版社は川上善兵衛を次のように説明している。

「明治23年(1890年)、川上善兵衛は日本で初めてワインづくりをめざして葡萄の苗を植えた。越後高田(現・上越市)の庄屋の家に生まれ7歳で家督を継いだ彼は厳格な教育を受け、勝海舟の勧めで葡萄栽培とワイン醸造を決意する。だが、その道は現代のわれわれが想像する以上に、遠く、険しい。日本の地でも育つ強さを持ち、なおかつおいしいワインになるたわわな実がなるようにするだけでなく、年月を経てから口にするまで結果が見えてこないからだ。寒冷の地での栽培は苦難の連続で、度重なる冷害と洪水で大地主だった財産をすべて失ってしまう。しかし、雪を利用した低温醸造などの工夫を重ね、やがて彼は岩の原ワインの礎を築いた」

だが、単なる川上善兵衛伝ではなく、筆者に送られてきた録音テープによる高田瞽女トヨの証言を通して、その人物像を浮き彫りにしており、小説のように一気に読める。

高田にあった貸鍬制度のため、鍛冶屋が石だらけの岩の原開墾で刃先が欠けるため悲鳴をあげた話、大正天皇が岩の原葡萄園を訪問した際のドタバタぶり、妻の離縁などの豊富なエピソードを交えながら、川上善兵衛というとてつもない人物を描く。

大地主であったのに私財をなげうっただけではなく、莫大な借金を背負った。気が遠くなるようなブドウの交配から生まれたマスカット・ベーリーAという今も広く作られている品種ですら、苗木をどんどん配ってしまい、勝手に売買されてしまう。

自分は外国から高価な苗木を輸入し、財産をすっからかんにしたにもかかわらず、である。

金儲けではなく、その当時の殖産興業への思い、日本や農民を豊かにしようという善兵衛の強い思いは、胸を熱くする。

同葡萄園の坂田敏社長は「開設120周年という節目にあたって、川上善兵衛の本が出たことはうれしい。善兵衛はマスカット・ベーリーAという代表的なブドウ品種を始め、ブドウ作りの全書など、多くの資産を残してきた。この本によって多くの人に善兵衛を知ってもらえるるきっかけになってほしい。ワインファンはもちろん、上越の人もぜひ手にとってほしい」と話す。

巻末に善兵衛の年譜と写真が付いている。

なお、書名の「えびかずら」とはブドウのことである。

四六判、192ページ、1470円。

書店のほか、岩の原葡萄園のショップでも発売している。