新潟県上越市郊外の飯田に江戸後期の1804年に創業した歴史ある小さな酒蔵「上越酒造」がある。同社は蔵元杜氏(とうじ)の高齢などから廃業の危機にあったが昨年8月、公営競技場の運営などを行う「日本トーター」(東京都)に全株式を譲渡し、子会社として酒造りの再スタートを切った。蔵の大規模改修を経て新年を向かえ、2022年2月には“新生”上越酒造の酒が醸し出される。
上越酒造は今年で創業218年。和釜に甑(こしき)で酒米を蒸し、槽搾りや袋つりといった昔ながらの伝統的な酒造りで「越後美人」「越の若竹」を醸造してきた。
一昨年、6代目で蔵元杜氏だった飯野美徳会長(73、当時は社長)は自身の年齢や経営状況などを考え、「この地で誰か酒造りを引き継いでほしい」と県事業承継・引き継ぎ支援センターに相談。農業や食品加工などの異業種参入を検討していた日本トーターを紹介された。
新たな酒造りは飯野会長の協力を得ながら、渡邉忠義社長(50)など日本トーターからの出向者3人を中心に行う。「酒造りが継続し、ほっとしている。全く違う業界からの参入なので、私も一から勉強し直し、喜ばれる酒を造っていきたい」と飯野会長。
以前はオートレース場のシステム保守管理を担当していた川口正高工場長(57)は「ゼロからの出発だが、他の酒蔵からも温かい目で声を掛けてもらい、上越の人の優しさを感じている。水の良さも生かし上越らしい酒を提供したい」と意気込む。
改修工事では、古い酒造りの道具を展示し、蔵の見学コースも開設した。上越酒造の酒を公営競技の記念品にすることや冠レースの開催なども検討していくという。
渡邉社長は「皆さんに知ってもらい、地元とともに発展していきたい」と話している。