現代美術作家堀川紀夫さんの作品が東京国立近代美術館所蔵に 上越市出身者で5人目

新潟県上越市の現代美術作家、堀川紀夫さん(77)が信濃川で採取した石を使って制作した造形作品が2023年2月、東京国立近代美術館(東京都千代田区)に収蔵された。同市出身者で作品が同館所蔵となったのは牧野虎雄(油彩画)、小林古径(日本画)、富岡惣一郎(油彩画)、内田邦夫(陶芸)に次いで5人目。5月24日、堀川さんが同市教育委員会の早川義裕教育長に収蔵を報告した。

早川教育長(左)に報告する堀川さん

美術教員の傍ら前衛芸術を創作

堀川さんは旧清里村出身で同市東城町1在住。2006年まで38年間にわたり公立学校の美術教員や校長として教壇に立つ傍ら、前衛芸術作品を世に送り出した。退職後は、海外での個展開催や展覧会への出展も多数あり、国内外で活躍している。

アポロ11号月面着陸から着想

収蔵された「The Shinano River Plan1969/2013」は、堀川さんが1969年から取り組む「石を送るメール・アート」シリーズの一作品。同シリーズは同年7月、堀川さんがアポロ11号の月面着陸に着想を得て、同時刻にラジオ中継を聞きながら、当時勤務していた中学校の生徒と共に十日町市内の信濃川で石を採取したことに始まる。世界が「月の石」で大騒ぎする中、「地球の石」としてむき出しのまま、針金で荷札をくくり付け、11人の美術関係者に郵便小包で送った。

「石を送るメール・アート」シリーズの一作品

米ニクソン大統領にも石を送る

同年12月には、泥沼化するベトナム戦争への反戦の意思と“投石”の意味を込め、米ニクソン大統領にも石を送り話題となった。翌1970年の「第10回日本国際美術展(東京ビエンナーレ) 人間と物質展」にも展示され、2013年に開催された同展覧会の再展示を考える「人間と物質展再展示計画シンポジウム」に堀川さんが再度制作して出展した作品が、今回東京国立近代美術館に収蔵された。

東京国立近代美術館に収蔵された「The Shinano River Plan1969/2013」(「石を送るメール・アート読本」より)

東京国立近代美術館収蔵は夢

50年以上続く活動で送った石は約120個。このうちの9個は、東京国立近代美術館をはじめ国内外の8か所の美術館に収蔵されている。堀川さんの宇宙的視点や平和への思いを込めた芸術は石のみにとどまらず、送るという行為までがアート作品となっている。

堀川さんは「まさか東京国立近代美術館に入るとは。夢には思っていたが、本当に実現するとは思ってもいなかった。50年経って、こういうことが起こるというのが面白い」と話した。「月の石を拾うのだから、地球でも石を拾えばいい。ほかの国でも誰かが同じことをやると思っていた」と当時を振り返った。同館での展示公開は未定という。

「石を送るメール・アート読本」

芸術活動をまとめた著書も出版

昨年10月には、ニューヨーク在住の美術史家、富井玲子さんとの共著「石を送るメール・アート読本」(現代企画室、B5判、143ページ)を出版した。堀川さんの芸術活動の足跡をまとめた本で、市教委に2冊を寄贈した。今後、高田と直江津それぞれの市立図書館で閲覧できる。

早川教育長は東京国立近代美術館収蔵に祝意を述べ、寄贈された著書について「貴重な本をありがとうございます。広く市民に見ていただければ」と感謝した。

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